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仄暗い通路の中、僕はひた走る。
何処からともなく不気味な唸り声が響く中を必死に駆けて行く。
神殿の奥に続く通路は言い伝えの通りだった。
その経路も、通路を満たす仄かな灯りの存在も。
そして、その中に巣くう怪物の存在も。
神殿の入口へと共に足を踏み入れたのは、僕も含めて5人だった。
いずれも僕の村での選りすぐりの腕達者達だった。
そして、誰もが信頼のおける間柄だった。
神殿の奥にて祈りを捧げる僕を守るため、皆は付いて来てくれたのだ。
けれども、今や僕と一緒に駆ける者は誰もいなかった。
通路を奥へと進む途中にて次々と襲い来る怪物を食い止め、僕を先に行かせるために、一人、また一人と離れていったのだ。
最後まで僕を守ってくれたのは、隣の家のロッシュさんだった。
つい先程、暗がりから唸り声を上げながら襲い掛かって来た大猿を食い止め、そして、こう叫びながら僕を先に行かせてくれたのだ。
「ここは俺が食い止める!
お前は先に行き、お前にしか出来ないことをやり遂げるんだ!」と。
僕はロッシュさんと一緒に踏み止まって、あの大猿と戦いたかった。
でも、僕は先を急がなければならなかった。
一刻でも早く、この神殿の奥にあると言われる「祈りの間」へと辿り着き、そして災いからこの国を守ってくれるよう神に祈りを捧げるため、僕は涙を堪えて神殿の奥へと駆けていった。
ガランとした神殿の通路に響く僕の足音は何とも心細かった。
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