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僕の住む島は、その四方を海で囲まれている。
「絶海の孤島」なるものだそうで、島の外との関わりは一切無い。
島の形は、例えるならば西側に口を開けた三日月のようなものだ。
北の部分と南の部分には平野やなだらかな丘陵が拡がっていて、幾つかの村落が点在している。
村人たちの多くは耕作に携わり、小麦や野菜を育てている。
丘陵地帯では果樹を育て、そして羊を放牧したりもしている。
それぞれの村には教会があり、週に一度の安息日の朝になると村人たちは連れ立って礼拝へと趣く。
そして、そこに祀られている「太陽と豊穣の神・アデュラス」の神像に触れて祈りを捧げるのだ。
また、産まれた赤ん坊は1週間のうちに教会へと連れて行かれ、神像に触れさせての洗礼を受けることになるのだ。
毎年の穀物の出来に多少の浮き沈みはあったりもするけれど、極端な不作になることもなく、平穏な暮らしだった。
それは神様のご加護の賜だと人々は信じているのだ。
王様への年貢もそんなに重いものでもなく、皆が長閑に暮らすことが出来ていた。
けれども一昨年のこと。
小麦の天敵として怖れられているクェツル病が、島の北側の畑にて発生してしまったのだ。
クェツル病とは、小麦がまだ若芽のうちにその葉を黒く染め上げてしまい、そして、枯らしてしまう厄介な病気だ。
クェツル病がまん延してしまったせいで、島の小麦の収穫は例年の半分くらいにまで落ち込んでしまったのだ。
この地を治める王様が、備蓄していた穀物を人々に分け与えたことで飢え死ぬ人を出さずに済んだ。
けれども、昨年はさらに酷かった。
北の集落で再びクェツル病が流行ってしまい、その上、南の集落にも飛び火してしまったのだ。
そのせいで、小麦の収穫量は例年の四分の一くらいにまで落ち込んでしまったのだ。
王様も手をこまねいていた訳ではなく、備蓄の穀物を配ったりもしたが、そんなに大量に蓄えがあった訳でもなかったので、全ての村落に行き渡る分はなかった。
二年続けての凶作によって、飢え死にする人も出始めてしまった。
そして、食糧を巡って村々の間で小競り合いも起きつつあったのだ。
これで、もしも三年続けての凶作となってしまったら、飢え死にする人は続出してしまうし、食糧を巡っての争いごとも増えてしまうだろう。
島中に不安な空気、そして不穏な雰囲気が漲りつつあった。
そんな時のことだった。
信心深い人々の夢に啓示があったのだ。
二年続けての凶作は、人々の不信心によって「太陽と豊穣の神・アデュラス」の力が弱まり、眠りについてしまったがためである、と。
それ故、神殿の奥深くに在ると言われる「祈りの間」に行き、祈りを捧げて神を目覚めさせなければならない、と。
そして、この島でそれを為すのは『祈りの一族』と定められているのだ。
『祈りの一族』には、神殿の奥への入り方、神殿の通路、そして「祈りの間」での作法が代々引き継がれている。
僕は今年で16歳になる。
父さんは三年前の狩りの最中に足を骨折してしまい、その影響でびっこを引くようになってしまった。
その状態で神殿の奥に足を踏み入れようものなら、たちまちのうちに徘徊する怪物達の餌食になってしまう。
そのため、跡継ぎであるこの僕が「祈りの間」に行き、一族に伝えられる祈りを捧げることになったのだ。
それは父さんが役目を果たせない今となっては、僕にしかできないことだったのだ。
もちろん、この僕一人だけで危険で凶暴な怪物がうろついていると伝えられる神殿の奥深くに足を踏み入れる訳にもいかない。
襲い掛かる怪物と闘い、時によってはその身を盾としてでも僕を守ってくれるような仲間と一緒でなければ、「祈りの間」に辿り着く前に殺されてしまうだろう。
だから、小さい頃から顔を合わせていて信頼のおける同じ村の人の中から同行してくれる人を募ることになった。
力自慢の鍛冶屋の大将、村で一番の狩りの達人、そして以前は城で騎士をしていた者など、村の中でも腕利きの人が名乗りを上げ僕の護衛に付いてくれることになったのだ。
そして、小さいことから仲良くしてもらっている隣の家のロッシュさんも一緒に来てくれることになった。
神殿はこの島で最も高い山の麓にある。
神殿の祭壇の裏側にある地下への扉、それは普段は厳重に封印されている。
地下への扉など開きっぱなしにしていたら、そこに潜む危険な怪物が出てきてしまうかもしれないのだ。
神官たちの立ち会いの下で扉の封印が解かれた。
そして、地下へと続く通路へと足を踏み入れた僕たちに次々を怪物が襲い掛かって来た。
大きな狼であったり、大蛇であったり、或いは大猿であったり。
襲い来る怪物を食い止めて僕を先に行かせるために、一人、また一人と離れていった。
最後まで僕に付き添ってくれていたのはロッシュさんだった。
けれども、そのロッシュさんとも、つい先程に別れてしまったのだ。
唸り声を上げて襲い掛かって来た、一際凶暴な大猿の怪物を食い止めるために。
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