私にしかできないこと

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蹴破るようにして扉を開け、そして飛び込んだ祈りの部屋。 そこは至って簡素なものだった。 飾りも何も無いノッペリとした石造りの部屋の真ん中には、僕の腰くらいの高さの石造りの祭壇があった。 飾り気の無い祭壇の上に据え付けられていたのは、銀色に輝く聖杯だった。 おそらくは相当に長い年月、その場所に据え付けられていたであろう手の平ほどの面積のその聖杯は、年月の重みを感じさせないような輝きを放っていた。 その有様は、一族の言い伝えの通りだった。 僕は祭壇へと歩み寄る。 懐から手拭いを取り出し、その上面を注意深く拭った。 上面には乾き切った赤黒い汚れがこびり付いていたけども、手拭いで擦ったらパラパラと砕け落ちた。 僕は血の滴る左腕を差し出し、聖杯に血を滴らせた。 止めどなく流れ出る鮮血は、瞬く間に聖杯を満たした。 聖杯が血で満たされたのを確認した僕は、大きく息を吸い込んでから、肺腑から息を絞り出すかのようにして歌い始めた。 それは、『祈りの一族』に代々伝えられる『祈りの唄』だった。 祈りよ、神へと届けとの思いを込めながら。 付き添ってくれた仲間達の顔を思い浮かべながつつ、僕は歌った。 ロッシュさんの血に塗れた後ろ姿を思い浮かべつつ、僕は歌った 今朝に目にしたファニアの涙に濡れた寝顔を思い出しながら、僕は歌った。 僕は何度も何度も繰り返し歌い続けた。 意識が朦朧としつつある中でも只管に歌った。 そして、いつしか意識は途切れていた。
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