第1章 馴れ初め

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 学院の寄宿舎のベッドで目を覚ました。  久しぶりに昔の夢を見た気がする。  レイナード様との婚約が決まって、彼に恋心を抱いていることに気づいた幸せなあの頃のことを。  なぜ両親が当日までわたしに婚約の申し入れのことを黙っていたのかというと――。  婚約決定と同時に始まった「お妃教育」のせいで、わたしは騎士になれなくなってしまったのだ。  特別な教育係が入れ替わりにわが家へやって来ては、礼儀作法の勉強やら、外国語の勉強やら、我が国の貴族たちの名簿を血縁関係まで絡めて全て覚えろやら、国際情勢の勉強やら、毎日気の休まらない目の回りそうな日々を過ごす羽目になってしまった。  あーあ、リンゴの木に登って盗み食いしたいわー、などと言おうものなら、まず言葉遣いを訂正される。 「あら、あの赤い実はリンゴですの?わたくし、先日初めてアップルパイというお菓子をいただきましたのよ」  もはや原型をとどめてない大幅改正だ。  そんなこんなで、わたしは1週間で音を上げて、レイナード様の婚約の申し出を謹んでお受けしたことを後悔した。
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