閑話 レオンの恋

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 明日のマリアンヌの訪問は、わたしにお菓子作りを教えてくれるという名目なのだから大げさなことはしないでほしい。  お母様だって昔、カフェ店員だった頃があるでしょう?その頃を思い出してほしい。  そう言って母を落ち着かせるのに随分と時間がかかった。 「大体ねえ『猛アタック中』って聞いていたのに、レオンお兄様ったら黙って紅茶を飲んでいるだけなんだもの、アタックでも何でもないのよ、情けない」 「あら、あの人にそっくりね。あなたたちのお父様も、何時間もカフェに居座って、怖い顔で無言のままひたすら珈琲をおかわりするだけだったから、最初はお仕事で張り込みでもしているのかしらって思っていたのよ」  母が昔を懐かしむように微笑んだ。  やだ。  レオンお兄様のヘタレはお父様譲りだったのね!  翌日、家の馬車で迎えに行ったレオンに連れられて手土産にマカロンを持ってやって来てくれたマリアンヌの顔は蒼白になっていた。  どうやらうちが伯爵家であることを、たった今知ったらしい。  十代の青春時代をお菓子作りに捧げたマリアンヌは良くも悪くも世間一般とはズレていて、レオンが騎士であることだけは本人から聞いて知っていたものの、実家が伯爵家であることは知らなかったし、そもそも高位貴族たちは雲の上の存在で一生自分には無関係だと思っていたらしい。  城下町の娘の中には、玉の輿を夢見て貴族の名前に詳しい人も多いけれど、マリアンヌはそういった理由から、レオン・ビルハイム、ステーシア・ビルハイムという名前を聞いてもピンとはきていなかったようだ。  ここでさらにわたしが王太子殿下の婚約者とでも言おうものなら、彼女はきっと逃げ出してしまうだろう。  幸いなことに?もうすぐ婚約破棄される身だから、わざわざ言う必要もないし、よかったわ!
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