35. 新たなる神話の始まり

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35. 新たなる神話の始まり

 焼き肉屋に戻ってくると、パパとママが合流していた。 「おう、和真! おめでとう!」  パパが手のひらを向けてくるので、和真はほほを赤らめながらパチンとハイタッチをした。 「芽依ちゃん、大切にしろよ!」 「もちろん!」  和真はしっかりとした目で答える。  そんな二人をママは幸せそうに眺めていた。 「じゃあ、二人の門出を祝ってカンパーイ!」  シアンは上機嫌にジョッキを掲げ、 「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」  みんな楽しそうにグラスを合わせた。 「で、うちの仕事続けんの?」  シアンは口の周りに泡をつけたまま和真に聞いた。 「はい! お願いします!」  うんうんとうなずいたシアンは、 「じゃあ配属は#3271、EverLand、レヴィア、任せたよ!」  ブフッと噴き出すレヴィア。 「え? EverLand!? それってゲルツが担当してた廃棄予定の星じゃないですか!」 「ゲルツができなかったことを実現する、燃えるよね?」  シアンは皿の肉を一気にロースターにぶち込みながら和真に聞いた。 「まぁ、そうですが……。ユータさんみたいに星を運営して文化文明を発展させればいいんですよね?」  レヴィアは画面をビヨンと大きく広げるとEverLandの情報をバッと表示した。人口や文化指数の推移などが出ている。しかし、グラフは精彩を欠くものだった。 「うーむ、典型的なダメグラフですな……」  レヴィアは腕を組んでうなった。 「これを日本みたいに発展させればいいんですか?」 「そうじゃ。じゃが、日本のコピー作っても認められんぞ。オリジナリティないものはアウトじゃ」 「うーん、そこが難しいですよね。オリジナリティなんてどうやって伸ばしたらいいのか……」 「そこが腕の見せ所。ヒントは若者と新陳代謝さ」  シアンは焼肉をほおばりながら言う。  するとパパが身を乗り出して聞いた。 「何やってもいいんですよね?」 「そうだよ? 彼らにとって君たちは神様。天罰も奇跡も起こし放題さ!」  シアンは肉をつまんだ箸を高々と掲げると、宗教画の女神きどりで肉をまぶしく虹色に光らせる。 「神様!? ……、そうか!」  和真は目をキラっと輝かせ、芽依に向かって言った。 「芽依! 新たなメタバースを作るイメージでいいんだよ!」 「メ、メタバース? リアルな星に新たなエコシステムを作るってこと?」 「そう! 落書きが高値で奪い合われるようなエコシステムだよ」 「いやいや、ブームなんてものはもって一年よ?」 「でも、そこで集まったヒトモノカネはまた別のムーブメントに繋がるよね」 「うーん、そうね。集まったお金はまた別の挑戦に投資されるわね」 「それ! そのエコシステムを裏から支援し続ける事、それが僕たちの仕事なんじゃないかな?」 「でも、コンピューターのない世界でそんなこと言ってもねぇ……」  人差し指をあごにつけ、首をかしげる芽依。 「魔法さ」  和真はニヤッと笑った。 「魔法!?」 「魔法を世界に組み込むのはアリですよね?」 「あぁ、前例もあるしな」  レヴィアはジョッキを傾けながら答える。 「ヨシッ!」  和真はグッとこぶしを握った。 「ちょっと待って! 魔法を使ってコンピューターの代わりにしてメタバースを実現するってこと?」  芽依は困惑した表情で聞く。 「できるよね?」  和真はパパに振る。 「魔法の仕様によるけど、魔法って何でもアリだから構築できないことも……ないかにゃ?」  ネコ言葉に思わずママが噴き出す。 「あ、いや、これは……。ネコ暮らしが長かったんだよ……」  パパはほほを赤らめながらジョッキをぐっとあおる。 「……。ヨシッ! 魔法の塔を建てる! 天を貫く魔法の塔。そこでは誰もが平等で情報やコンテンツを魔法で売買できるんだ。大学であり、市場であり、NFTだ!」  和真は嬉しそうに叫んだ。自分の設計した世界で多くの人が伸び伸びと創作活動に汗をかく、それはまさに神にしかできない壮大な実験であり、また、メタバースで新たな運命を切り開いた和真ならではのオリジナリティのあるプランだった。  すると、シアンが立ち上がり、楽しそうに、 「ヨシッ! やってみて!」  と、言ってパチンと指を鳴らした。  気がつくと一行は見渡す限りの草原に立っていた。少し先には川が流れその向こうには富士山がそびえている。 「え? ここは……?」  和真が困惑していると、 「どんな塔を建てるの?」  シアンが嬉しそうに聞いてくる。 「どんなって……。水とか火は見たことあるから……木?」  和真は芽依に聞いた。 「木? 世界樹みたいな木のこと言ってる?」 「うん、ここに壮大な巨木が生えてたらそれは素敵だと思うんだよね」 「ヨーシ! それ、行ってみよう!」  シアンはそう言うとバッと両手を空に広げた。  すると、上空に現れる巨大な輝く円。それは雲よりはるか高く上空に、直径十キロはあろうかという巨大なサイズで緑色に輝きを放つ。  何だろうと見ていると、そこにルーン文字が書き込まれ、六芒星が浮かび上がり、最後には巨大な魔方陣となったのだ。  和真がその魔方陣の輝きの美しさに言葉を失っていると、やがて魔方陣から何かが出てくる。魔方陣いっぱいに広がる茶色い枝の群れは、どんどんと降りてきて雲を突き抜け大空を覆いつくす。 「えっ!? まさか……」  どんどんと加速しながら落ちてくる枝の群れ。最終的には音速を超え、激しい衝撃波を放ちながら頭上を覆い、迫ってくる。 「へぇっ!?」「うわぁ!」「ひぃっ!」  みんなは焦るが、シアンは笑いながら、 「きゃははは! 大丈夫だって!」  と言って、自分たちの周りにシャボン玉のような虹色の薄い膜を張った。  さらに速度を上げながら落ちてきた枝の群れは超音速で草原に突っ込み、大爆発を起こしながら大地にめり込んでいった。和真たちのそばにも太さ数メートルはあろうかという巨大な枝が突っ込み、爆発的に土埃(つちぼこり)を噴き上げ、大地震を超える衝撃がやってくる。 「ひぃ!」  衝撃波はシャボン玉を直撃し、和真たちはシャボン玉ごと高々と宙に舞った。 「キャ――――!」「おわぁ!」  シャボン玉はそのまま地面に落ち、ゴロゴロと転がる。  和真たちはその中でもみくちゃになり、上へ下へとなりながら草原を転がった。  やがてどこかのくぼみで止まる。 「あ痛ててて……」  和真が気がつくと、温かく、ふわふわとしたものが頬に当たっている。 「ん……?」  何だろうと思って手でつかむと、それは水色のワンピースに包まれた豊かなふくらみだった。 「ちょっ! ちょっと和ちゃん!」  和真は芽依に首根っこをつかまれて引きはがされる。それはシアンの胸だったのだ。 「きゃははは!」  シアンは嬉しそうに笑うと、 「少年は大胆だなー。でも、浮気はダメだゾ!」  そういってウインクした。 「あ、ご、ごめんなさい……」  芽依のジト目に小さくなりながら謝る和真。  芽依はそんな和真にそっと近づくと、耳元で、 「か、和ちゃんには私がいるでしょ」  そうささやき、赤くなった。
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