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その腕が、もう
煙草に火をつけてベッドから降りると、灰皿を持ったまんま窓を開けてベランダに出る。
そう言えば煙草が吸えるようになったのは先輩が吸えば、と言って私に勧めて来たからだったし、いつの間にかむせなくなってたのも何度もこうして身体を重ねてから吸うようになってからだった。
普通の時に吸うと、煙草は正直不味かったし、口内にじわじわと苦みが染みた。
まるで胸を重たくするような紫煙だったのに、いつの間にか心地よいものに変わっていた頃には、親友も同じように煙草を吸うようになっていたな、とそんなことを思い出した。
煙草が半分以下の長さになって、そこであくびをして灰皿に橙色を押し付けると部屋へ戻って、二人用の小さなキッチンテーブルの上に百円ライターともらった煙草と共に置く。
拾われた頃によく、先輩が焼うどん作って私の為にこのキッチンテーブルに乗っけて「俺これしか作れねえんだよ」なんて言ってたのを思い出す。
私が家に来るたびに先輩のレシピは微妙に増えていったし、私が覚えることも、覚えなくてもいいことも増えてった。
私は、それが嬉しかったんだよ、本当は。
焼うどん食ってる私の向かい側の席に頬づえをついて座っていた先輩の姿は、仕事帰りで煙草と土の匂いがしたり、寝起きでスウェット姿だったり、髪もきちんとセットされていて今から外出する姿だったり、色々だった。
先輩の色んな姿を見たな、と思った後で、そうか、席が足りなくなったんだな、と気づいた。
私の座る席は、もうここにはなくなったんだ、なんてそんなことを考えた。
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