その腕が、もう

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その腕が、もう

携帯を閉じてポケットにしまうと、私はとりあえず、まあ礼儀として先輩に「ありがとうございました」と言った。 今までだいぶ助かった、と思っていたのは本心からだった。 「いいよ、おまえ、もっと友達んとこ行けよ」 すると先輩は突然「友達」なんて言い始める。今までさんざん世話にはなったと思うけど、こんなことを言われたのは初めてだった。私の「友達」になんてまるで興味もない感じで、私だってそれをわかってる、って思って、なんの話もしたことなかった。 そう言えば家の話だって、学校の話だって先輩にはしたことなんて一度もなかったな、と思った。 私は自分の家に帰りたくない時、親友に彼女がいる間、何か気に入らないことがあった時なんかに、先輩の家にご飯を食べに来て、寝に来てた。 そうか、これが「子供すぎる」と言われた理由のひとつなのかもしれないな、と、そんなことを考えた。 だからもっと友達と遊べ、ってことなの?子供は友達と遊んでろ、って? 「どういう意味ですか?」 「おまえは、もっと友達と居た方がいい、そういう時間、大事だよ」 「私、なんかしたっけ」 「なんもしてないよ」 「じゃあなんでですか?」 「料理さ、下手くそなのに、いつも残さないでくれて嬉しかったよ」 それで、私たちの話は終った。
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