何があったの?

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何があったの?

その日出勤してみると、何やら待機室の雰囲気がおかしかった。 待機室、と言うのは、そのSMクラブに嬢として在籍している女の子たちが、自分が客から呼び出されるまでの時間、出勤してから指名が入る時間までを過ごす為の部屋のことだ。 待機室になっている方の部屋はそこそこ広く、中心には汚れたガラステーブル、それを囲むようにしてコの字型に設置された毛羽だった合皮のソファ、そしてガラステーブルの上に置かれた煙草が山盛りになった大きくて重たい灰皿と、S嬢が少数、残りはほとんどM嬢と言った感じの物、嬢たちで構成されている煙たい部屋だ。 このSMクラブの「会社」「事務室」「待機室」を担う二部屋があるこのマンションの一室は、多分社長が借りているのだと思うが、まあ普通のマンションでもあるので、出勤する時はご近所さんとかち合うことなんかも普通にあった。 なんとなく気まずい。 そして、普通の人が住んでいるのだから当たり前にユニットバスとキッチンがついていて、ユニットバスのお風呂の方にはビールの空き缶がギシギシに詰まったゴミ袋が灰皿の中の煙草と同じように山盛りに押し込まれており、シャワーは使えない。 トイレがある方だけはなんとか私が掃除をするので(何せ裏方なので)それなりに綺麗に整えられており、キッチンには冷蔵庫が二つ。 中身はもちろんビールがビッシリと、嬢の誰かが出勤する時に、昼食の為にと買って来たであろうコンビニ弁当やウィダインゼリーがポンポンと時々入れてあったりする。 キッチンのシンクの方はもはや絶望的な状態で、いくら裏方だと言ってお給料をもらっていようが、さすがに私も手を出したことはなかった。 部屋の並び的には、マンションのドアを入るとまず事務所のような役割を果たしている部屋があり、その部屋を真っ直ぐ通り過ぎるだけで、脇にキッチン、そしてそのまま待機室にあたる部屋へと着くことが出来る、と言う簡単な作りになっていた。 とりあえず部屋の間取りの説明を文章でするのはとてつもなく苦手な為、適当に想像して欲しい。 事務室(多分)にはパソコンや電話、様々な書類や写真集や雑誌、ビデオ(DVDはまだなかった時代だった気がする)、テレビ、カメラや撮影用の衣装をかけてあるロッカーなんかが、しばらく変えていないであろう照明のせいで薄暗い中、それぞれの役割を果たしやすい場所に、それでも乱雑に置かれている。 その部屋の脇にユニットバスへ入る為のドアがくっついている。 まあとにかくそんな感じで、私は事務室でのパソコンでの店のホームページの管理や、電話で嬢への予約が入ればそれを待機室にいる嬢に知らせ、壁に掛かっている大きなボードへ「何時~何時〇〇ホテル〇〇号室、○○嬢、お客さん○○」など、簡単なメモを書く。 それから、必要そうな道具や衣装をロッカーから取り出して状態を確認したり、嬢がホテルに持って行くバックの中に詰めたりする。 待機室に残っている嬢たちと会話を楽しむこともあれば、トイレ掃除をしたり、プレイに足りない備品があれば購入する為に薬局やコンビニに出かけて購入をして来て補充をしたりする。 ホームページに、嬢の日記や写真をアップしたり、今日のおススメ嬢の写真をアップしたり、こんな衣装でのこんなプレイはいかがでしょう、なんて言うシチュエーションを考えたりして、所謂掲示板のような場所に投稿したりすることも裏方の仕事の一つだった。 ちなみにそのおススメプレイ、おススメシチュエーションとは、完全に私の妄想の産物であって、このSMクラブで働きはじめてからビデオを観せてもらったり、雑誌を読んで得た知識を練って書いただけのものだったのだが、それなりに見てくれる方がいて、人気もあったりして、私は何気にそのことが嬉しかった。
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