今更、だな。

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今更、だな。

「わかりました、ではそちらを向きますね」 「しおりちゃんが、恥ずかしいのがいいんだ」 そうなのか。 しおりはここまで一切恥ずかしそうな素振りをして来なかったことに気づいた。 しまったな、と思った。 着替える時だって、本当は私が恥じらいながら、見ないで欲しいです、なんて言いながら照れて、裸を腕で隠したりしながらなんとか必死で着替える、そういう様子が見てみたかったのかもしれない。 お客さんには、なんだか申し訳ないことをしてしまった、と思いながらも、ああでも結局これからはマジで恥ずかしい姿を見せる事になるのだからそれでいいじゃないか、本気で苦しんで、恥辱にまみれる女の方がこのお客さんだって喜ぶだろう、とも思った。 なんたって人生初、そして人生最後の風俗店勤務の思い出となるプレイがコレなのだから。 「もう、十分恥ずかしいです」 「はじめてだもんね、しおりちゃん、緊張してるのがわかるよ」 「…そうなんです、私、緊張してしまって」 「そういうところがいいんだから、そのままで大丈夫だよ」 取ってつけたような「恥ずかしい」に、どうやらこのお客さんは「私がはじめてのお客さんの前で緊張してしまっている」と言うように見えていたようだ、と言うことがわかるセリフが返ってくる。 そうか、そうだ、緊張しているから固まってしまっていて、まるで平気そうな、そういう感じになってしまっただけで、あれは違うんです。 そう、緊張していただけなんです。 と、まあこう言うことにしておく方が良さそうだと思った。 「じゃあ、はじめるので」 「うん、よろしくね」 へへへ、となるべく気弱そうに笑ってから、お客さんのスーツに包まれた膝小僧付近だけを見つめ、なるべくその出目金が浮かべそうな「満面の笑み」を目の当たりにしないようにして、しおりはスカートの中に手を入れるとストッキングを引っ張ってずり下ろす。 慣れていないのでなかなか上手く脱ぐことが出来ず、少しばかり手間取りながらもなんとか細いゴムの束で出来ているそれをもぞもぞとふくらはぎ辺りまで下げることに成功する。 次はショーツか、と思うのと、「私」何やってんだろ?と思うのとは同時だった。 しかしここで「やっぱりやめます」と言って帰る勇気はわかなかったし、ホテルの駐車場で痛むお腹を抱えながらも、しおりがプレイ終了時間になって姿を現すのを待っている社長のことを考えると、どうしても引き返すことは出来なかった。 ああ、マジ人生の汚点。 …あーでも、まあ今更、だな。 まあ、なんでも経験、と言う人もいることだし、諦めよう。 お客さんには気づかれないような吐息のようなため息をつくと、ショーツもストッキングと同じくふくらはぎまで下ろし、「こんなことなんでもない」と言う何もかもがバカバカしくなってしまったような、自暴自棄のような気持ちで、このプレイには欠かせない重要アイテムである、多分どこの薬局でも手に入るであろうイチジク浣腸の管のてっぺんにはまっている蓋を引っこ抜いたのだった。
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