苦しいのがスキ

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苦しいのがスキ

先ほどバックからだ出した、小さな幾つかの箱から、とりあえず三つだけを選ぶと手のひらに乗せてバックごと持って行く。 箱はテーブルに乗せ、バックはお客さんの座っているソファの端に置かせてもらう。 私は、普通の出目金に戻っていたお客さんの横に再び座ると、すぐにニコっと笑顔を作った。 風俗のお店はキャバクラと違って、時間を延ばすと言うわけにはいかない。 キャバクラだったら、客といる時間は延ばせば延すほど良いけれど、風俗のお店ではそれは嬢にとってもお客さんにとってもあまり良いことではない。 まず、お客さんの前払いだし、今日はもう予約のお客さんはいないが、予定が詰まっている場合にはキッカリ決められた時間以内にプレイを終わらせて、お客さんとバイバイしなければならない。 キャバクラならば、お客さんがかぶったって、お目当てのキャストが席を離れる場合にはヘルプの女の子に任せることが出来る。 しかし、風俗のお店では、お客さんが同じ店内にいるわけでもない、そして何よりお客さんが望んでいるプレイをこなせるヘルプ、つまり代わりになりえるような嬢が他にいるかどうかと言う問題もある。 とにかくかってが全く違う。 このままコスプレをしてお話をして、残った1時間半ほどが終わるのであればしおりだって、と言うよりかは、「私だって」その方がいい。 けれど、もう料金を頂いているのだし、あれだけ覚悟して来たのだ。 今日は「しおり」として「しおり」を演じ切ろう。 何よりも、お客さんの方だって、もうその気なのだと言うことはすぐにわかった。 「いいかな、しおりちゃん」 「…はい」 「僕は、ここで見てるから」 「え、そうなんですか?」 「うん、どうする?ベッドの方がいい?」 「うーん、どうでしょう、そうですね、ベッドの方がいい気がします」 「じゃあ、移動しようか」 何やらしおりが、と言うよりかは、私が頭の中で繰り広げては絶望していた状況と、このお客さんの望んでいる状況と言うか、状態と言うか、まあそう言ったプレイに対する内容は、どうやら少し違うようだった。 しおりはテーブルに置かれっぱなしになっていた三つの小さな箱を手に取ると、お客さんがベッドの方へ移動しはじめるのを見て、困惑しながらもその丸まった背中について行く。 ふかふかな大きなベッドの脇に、やはり浅く腰掛けるお客さんが、しおりには「真ん中使ってね、寝っ転がったり、お腹を抱えたりしていいから」と言ってくる。 そうか、そう言うことか。 このお客さんは、「しおりが苦しんでいる姿」が見たいのかもしれない、と、そう思った。
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