キッショイ

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キッショイ

「今、どんな感じ、しおりちゃん、」 「あ、ええと、中が、冷たいです」 「違うよ、気持ちの方、教えて欲しいんだ」 「気持ちですか?気持ち…」 てめえのことがキッショイって、そう言っても良いのなら、すぐにでも答えて差し上げることが出来るのですが、などと思いつつ、なんとかその言葉を飲み込む。 このお客さんの好みに添えるよう、敢えて微笑むことは辞めて辛そうな表情を作る。 こちらの方が適しているであろうと言うことは、もう察しがついているので、早く解放される為にも出来うる限りお客さんのお望み通りの対応を心がけようと決めたのだ。 「そう、気持ちを言ってね、しおりちゃん、もう、お腹痛い?トイレはどう?」 「そんな…そんなすぐには多分無理です。説明書に、10分くらい待つ、って書いてありました」 「10分!そんなに待ってていいの!」 「はい、それでも我慢できそうならば、15分までと書かれていましたよ」 「15分か、じゃあ、15分、しおりちゃんとお喋りが出来るね」 「そう、ですね…」 「じゃあ、どんな感じがするか、教えてくれる?」 「えっと、その、まだお腹は痛くないので、もう一つ試してみますか?」 「うんうん!もちろんいいよ」 どんな感じも何も、液体を入れたばかりの状態ではまだ何か起きるわけもなく。 興奮気味に聞かれても、本当にお腹も痛くはなっていないし、苦しい、辛い、トイレに今すぐ行きたい、と言うような気持ちにもならなかったので、とりあえず早めに「その状態」に持って行く為にも、もう一つめのイチジク浣腸を体内にブチ込んでみることにした。 そして、その提案はお客さんにとっても嬉しいものだったようで、二つ返事で快諾されたのだった。 もう、一度やってしまえば恥も外聞もない、と言うような気分になっていて、しおりはすぐに二つ目のイチジク浣腸を手にすると、先ほどと同じようなやり方で、その液体を「注ぎ込むのに適している部位」から腸へと送り込む。 二度目だったからか、中がいっぱいだったのかはわからないが、だいぶ外へと液体が漏れ出て来てしまった。 さらにしおりの手はグリセリンでヌルヌルに濡れた。 けれど、そんなことには構ってはいられない。 しおりは、とにかく眉を寄せ、唇をぎゅっと引き結び、耐え忍ぶような表情を作って見せる。 「なんだか、少しだけお腹の下の方が変な感じです」 「そうなんだ、変な感じって、どういう風に?」 「お尻の方から、どんどん苦しいのが上まで上がってくるみたい」 「苦しいの?本当だ、しおりちゃん、苦しそう」 「うん、はい、ちょっと苦しい、時間、10分はかっていいですか?」 「僕の時計、使っていいよ」 「ありがとう、ございます」 お客さんが、自分が腕にはめていた腕時計を外すと、大きな目をキラキラと輝かせてこちらへ身を乗り出してくる。 そうして横になっているしおりの頬の側にその腕時計がぽん、と置かれたので、しおりはそれを手にとって長針が今何分を指しているかを確認する。 某高級ブランドの腕時計であることに気づいたが、そのことについては特に突っ込まないことにした。 そんな腕時計が、しおりの手についているグリセリンでぬめることにすら、お客さんは興味はないようだった。 しおりの顔ばかりを、穴があいてしまいそうな程に見つめているのだ。 少しの息抜きも許されない、そういうことだ。 しおりはひたすらずっと苦しそうな困ったような表情を顔に貼りつけて、時々息も荒くしてみた。 耐えきれない、と言うように。 それは、色っぽい必要は一切ない。 ただしおりは、もう息も絶え絶えですよ、本当に苦しいですよ、と、そういう風に見えるように演技をしていれば良いだけなのだから。
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