寿司でも嫌だ

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寿司でも嫌だ

もしかしたら、誰かしらは連絡取り合ってて「ノロで休む」「じゃあ私もノロにして休もうかなあ」なんて、そんな裏話もありそうだ。 誰だって、時には仕事なんてサボりたくなったりするものだ。 何を考えようが、二進も三進も行かないとはまさにこのことで。 「どうしましょうね、二人目まではキャンセルしましたよ」 「聞こえてた、ありがとね、いつも」 「三人目はホテルに17時半っす。まだ時間があったのでキャンセルはしなかったけど、ぶっちゃけ無理」 「今、そっか、16時なるとこか」 「キャンセルしてもいいならすぐにでも電話かけられます」 「…うたちゃん、お願い、ちゃんと今日の分のお給料あげるから」 「当たり前のことを言わないで下さい」 やはり社長にとっては、売上が0な日が一日でもある、と言う事実はとんでもなく受け入れづらい事態のようだった。 系列店の雇われ店長さんからの見られ方なんかが変わっちゃったりするのだろうか。 いつも店が終わった後、皆が着替えたり帰り支度なんかをしている時に、社長はよくその雇われ店長と電話をしている。 時々聞こえるその内容は、その日の売上報告っぽかったり、体験入店で入った女の子はどんな様子だったか、など、手短にその日一日の店であったことの報告なんかを、大まかに話し合っているような、そんな感じだ。 仲良く談笑を交えて、なんて日もある。 売り上げが0だったくらいで、何か変わるだろうか。 男の沽券に関わるってやつだろうか。 とにかく私にはその辺りの事情は全くわからないし、知る必要もないのだが、何にせよ「そのなんかよくわかんない理由」のせいで、無理なことをさせられそうになっていると言うのは事実なわけで。 「うたちゃん、一人だけでいい、本当に、頼むのは最後だから」 「でも明日も誰も出勤出来なかったらどうするんすか」 「それは大丈夫だと思う、ノロ以外の理由で前から今日は休みにしてた子が一人いるし、明後日に体験入店希望の子の予定が入ってる」 「ノロ以外の理由ってなんですか、誰ですか」 「M嬢のももちゃん。今日、撮影で来られないだけだから」 「ああ、ももさん」 ももさんはAVにも出演しているくらいだから、たまに宣伝用の雑誌の撮影や、DVD自体のパッケージなんかの撮影があったりする。 ショーにも出てるし、人気だし、何より肝っ玉がでかいのか病んでいるのかよくわからないくらいになんでもこなす。S嬢以外、の仕事ならだが。 「お金が好きだから」と言っていたっけ。 そうだ、お金は裏切らない。 お金はあるに越したことはない。 だからお金が好きなのだ、と言ってどんなプレイにも怯むことなく対応する。 ある意味すごい人なのだ。 とりあえず、この店の嬢の全てがノロで全滅、と言うわけではなかったことに安心して、明日になればももさん一人で何人でもお客さんをさばいてくれるだろう、と言うところまで予想がついた。 ももさんは貰えるお金が増えるのだから、喜んで引き受けるだろう、と思った。 ああ、今日ももさんが居てくれたならば良かったのに。 ももさんだったら、こんなこと何でもない、全然平気、むしろ簡単なのにどうして引き受けないの?たったこれだけのことでお金が貰えるんだよ?と私に言ってきそうなものだ。 まあもうそこは、人による、価値観の差、としか答えようがない。 現に私は嫌なのだから。 「当然、嬢の分の給料も出すよ、うたちゃん」 「まだ行くって行ってないっす」 「準備、間に合わなくなっちゃうし」 「でもマジでやったことないし、いくらプレイが簡単そうだとは言っても」 「今日、帰りはお寿司屋さんにするから」 「私、生魚食えないんで」
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