Futile Desire

2/5
前へ
/59ページ
次へ
 テレビからは、お笑いなのか、ニュースなのかわからない話が流れている。メインキャストが芸人の時事ネタを扱う情報番組らしい。見るともなしにテレビを見ていた私は、目の前の座卓に置いた携帯電話を操作した。  誰からも、何の連絡も来ていない。ソファの背もたれに投げやりに体を預けた。  朝起きてから30分に1回程度のタイミングで携帯電話をチェックしている。三谷からの連絡を待ちわびているのだ。  もしかしたらあの女と会っているのだろうか。それとも家族サービスをしているのだろうか。  テレビの音をBGMにして、ただひたすら携帯電話を見つめていた。  三谷は隣の部署の課長で、今年27歳になった私よりも5歳年上だ。  去年の夏、開催された会社の夏祭りで部署ごとに出した模擬店が隣同士になったことがキッカケで、挨拶を交わす程度だった三谷と話すようになった。それ以降、時々2人で食事に行くようになっていった。  三谷は私が行ったことのなかった会員制のレストランやバーに連れて行ってくれて、料理や酒に関する博識を披露してくれた。それまで同級生か年下の男性としかつきあってこなかった私には全てが新鮮に映った。三谷の大人な雰囲気も相まって、だんだんと彼に惹かれていった。  しかし、この気持ちは素敵な上司に対する憧れのはずだった。  彼が既婚者だと知っていたから。そのうえ、以前から彼は不倫の噂が絶えず、今も彼の部署に所属する私と同期入社の美月と付き合っていると言われていたせいでもある。  不倫はしたくないし、まして、愛人の2番手も嫌だった。  部署は違っても、親しくしている上司と部下のはずだった。  ところが、5回目の食事の後、三谷は別れ際に私を抱きしめてきたのだ。 「会える時は俺からちゃんと連絡するから。だから待ってて」  この時、私は三谷への恋心をはっきりと自覚した。そのせいか、彼の言葉をキチンと守って、もう1ヶ月以上連絡を待ち続けているのだ。  壁につけた掛け時計を見上げると10時を指していた。窓に目をやる。風に揺らぐカーテン越しに雲一つない空と、外へと誘う太陽が目に入る。 「せっかくの休日、家でじっとしてるなんてムリ」    テーブルを両手で叩くようにして体を支えて立ち、着ていた部屋着のパーカーのファスナーを勢いよく下ろした。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加