10人が本棚に入れています
本棚に追加
三谷と完全に縁が切れて、1週間が経つ。
美月と彼は順調なのだろうか。2人の関係に嫉妬することはなくなったが、関係性が気になるのは止められなかった。
出社時のエレベーターはビルに入っている会社の社員たちでごった返す。
満員になっている所へ乗り込むのがイヤで、私は3回ほどエレベーターを見送った。
少し人と人の感覚が空くようになったので、エレベーターに乗り込み、自社のオフィスフロアへ向かった。
オフィスのある階に着き、扉が開く。エレベーターを降りると、なんだかフロアのほうがざわついていることに気づいた。
人だかりができている方へ足をすすめて、騒ぎの中心を覗き込むと、そこでは美月が三谷に掴みかかっていた。
私は自分でも感じることができるくらい大きく目を見開き、一口サイズのおにぎりが入りそうなほど口を開けた。頭を振って状況を理解しようとした時、周りの同僚たちの囁き声が耳に届いた。
「奥さんに浮気がバレたらしいよ」
「自分が気づかなかったらいいっていう奥さんらしいけど、美月さんが奥さんにバラしたんだって」
「何それ。宣戦布告しに行った感じ?」
そうだとしても、始業前の会社で何をやっているのか。私は、自分の意識が体から遠く離れていくような感覚におちいった。
三谷と美月の声がフロアに響く。
「誰も離婚するなんて言ってねえよ。家族が1番大事に決まってんだろ!」
「はぁ? 私が最優先って言ってたじゃない!」
注目する野次馬たちの体が動いた。部長が人だかりの間を縫って騒ぎの中心へと進んでいた。
その場が静まり返る。部長は遠めでもわかるくらい大きくため息をつき、2人の腕を取って別室へと連れて行った。
それをが合図になったかのように、野次馬たちはそれぞれ自分のデスクへと向かい始める。壁にかけられた時計を見ると、始業まであと10分だった。私は2人の行ったほうを見つめた後、静かに自分のデスクへと向かった。
デスクにバッグを置き、近くの窓へ向かう。その窓を開けると、ひんやりとした風が私の顔を撫でた。その冷えた空気は心地良かった。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!