雨、おそらく雨

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 ――あなたが望むのであれば、可能な限り、私が何でも叶えてあげましょう。  ありがたい話だ。  僕は素直にそう思った。  一体何を叶えてもらおう。  僕の心の高鳴りは止まらない。  しかし、上手い話には裏がある気もする。  そういった意味では、僕は慎重にならざるを得ない。  それに『可能な限り』という言葉が少し引っ掛かった。  僕は聞く。 「ちなみに、何でも、というのはどの程度の範囲まで可能なんですか?」  彼の言う『可能な限り』というものが、どの程度なのかがわからない。  ――私に可能な範疇(はんちゅう)であれば、何でも、です。  だからそれがわからないと言うのに。  いまいち的を射ない返答に、僕は少し怪訝(けげん)となる。  しかしせっかくなので、素敵な願いを叶えてもらいたい。僕の気持ちは途切れなかった。  僕は少し考えるふりをしてから、聞く。 「であれば、お金持ちになりたいのですが、いけますか?」  俗っぽい願いだが、やはりそれしかない。  考えるまでもなく、始めから決めていた。    基本的にはお金があれば色々と何とでもなる。  是非とも叶えてほしい。  ――少し、時間が掛かります。 「時間?」  予想外の返答に、僕は少し戸惑う。  ……なんだ、時間って。  ――無手(むて)からお金を稼ぐには、それ相当の時間と労力と才能と努力が必要だからです。  僕の疑問を察したのか、彼は言葉を続けた。  ……確かに、それはそうだ。  しかし、何でも叶えてくれると言うわりには、いささか現実的過ぎる返答に僕は少し不安になる。  というより、時間が掛かるというのは、まさか彼が実際に働いて稼いで、そのお金を僕に渡すということなのか。  僕は少し不安になった。
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