ゴジツダン

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ゴジツダン

―――――― ―――― 「何してるんだ、お前」 「……うわっ!!びっくりした」 「こっちの台詞だ。不審者かと思った」  お店の前で右往左往していると、古い引き戸が音を立てて開く。暖簾を掻き分けて中から顔を出した仏頂面の男の愛想の無さは、自分と嫌になる程似ている。 「べ、別に。ちょっと、通りかかっただけ」 「……」 「なんで無視なの」 「新座さんなら今日は店には来てないぞ」  会話の流れをぶった斬るような回答に、身体がギクリと跳ねてしまった。目を見開いて男へと視線を向けるのに、私の驚きとは裏腹に無愛想な表情には何の変化も見えない。 「何の話?そんなの聞いてない」 「連絡、取ってないのか」 「お父さんって、思ったより人の話聞かないよね」  遠慮なくぶつけられる会話に疲弊気味に感想を言うと、父は溜息を漏らしながらとうとう店の外へ出てきた。 「とにかくそんな所でうろうろされたら、迷惑。営業妨害だ」 「すみませんね、大人しく帰りますよ」 「朔」  いつみから家までは、徒歩およそ三分。近いにも程がある。とげとげした言葉を置いて踵を返すと、無骨な声に呼び止められた。 「なに?」 「お前、暇ならちょっと買い物行ってきてくれ」 「え……良いけど。なんか食材切れそうなの?」 「最中アイス」 「は??」  営業中に食材を切らすなんて、前日にしっかりと在庫チェックをしている父には珍しい。ズボンのポケットから財布を取り出す男を見つめていると、リクエストを受けたものがあまりに予想外で素っ頓狂な声が出た。 「帰ったら食べたいんだよ。家に置いておいてくれ」 「お父さん、あんまり甘いものばっかり食べないでよ。しかも営業あとの夜中に」 「……お前、志津に似てきたな」 「話を逸らさない」  「こんな怖い顔してほんっと甘い物好きなんだから〜〜!それ朔のやつでしょ!」と、お店でもお菓子をよくつまむ父に、母が怒っていたのを思い出す。あの人を思い出したら自ずと笑顔になってしまうけど、今はダメだと眉間に力を込める。
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