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「新座さん……!人が見てます、」
スーパーでの抱擁なんて、絶対に景色に溶け込む筈もない。かあと身体が熱を帯びて必死に伝えると、ちょっと不服そうな顔をしつつ、直ぐに解放してくれた。
そして目が合うと、深く息を吐き出して緊張が解けたような声色で「よかった」と微笑まれる。沢山の苦労を経て、今私に結果を伝えてくれたのだと分かれば結局また涙腺が刺激される。
「新座さん。色々、本当にありがとうございました」
「先生。本番はここからですよ。先生が原稿あげるまで気は抜けません」
「そ、そうでした。頑張ります」
「……本当は、無事に先ずは一作ちゃんと世に出せるまでって思ってたんですけど」
「へ?」
綺麗に整った髪を少し雑に乱した新座さんは、少し気まずそうに目を細める。そして私の腕を引き寄せた。
「朔さん。今日こそ、一緒に店長に怒られてくれる?」
「え、」
「今日は、家に返すの嫌です」
言われた言葉をなんとか咀嚼したらもっと熱が上がった。目を大きく開いて、整った顔立ちの男が「だって」とまた話し始めるのをただ見つめる。
「毎回寂しそうな顔、するから」
「……え」
「家まで送る時。可愛すぎるし手出したいし、マジで俺は一人でなんの苦行してるのかと思った」
ちゃんと言葉にできなくても、全てがバレバレだったらしい。恥ずかしさにその場から逃げ出したくなっても、腕を掴まれてそれは叶わない。
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