もう1つの世界で異なる愛を知る

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 俺には誰にも言えない秘密があった   どうして皆は気づかないんだ?   どうして平然でいられる?   自分の性が受け入れられない性一性障害を持つ少女と  他人の愛仕方が分からない少年の違う苦悩の物語 [newpage]  俺、梅原透は不思議に思っていた。  どうして学校では男の子はズボン、女の子はスカートを履かなければいけないのかってずっと思っていた。  そのことを母親に聞いてみたが、返ってきた答えはこうだった。 それは、【当たり前のこと】だと。 当然、俺はその言葉を聞いても、小さい頃だった俺は意味など理解出来なかった。だが、俺は、周りの人とは違う事に薄々気づくことが出来たんだ。小学4年生の時だろうか、俺の性格は『大人しい奴』というレッテルを貼られていた。 周りから見れば大人しいし、他人から何を言ってもけなしても、あいつは何も言い返さないしやり返して来ないよと誰かが言っていた。しかし、そうではなかった。俺は、実際に他人と話すのが面倒で一人でいるのが楽だったからだ。 友達なんて俺にはいらなかったからだ。制服のスカートを、小学3年生から着なくなりズボンに変えたが、両親が何としてでもスカートを履かせるよう説得してきたが、俺はそれを拒否した。ヒラヒラした物はこの頃から苦痛でたまらなかったからだ。両親も渋々諦めたのか、放っておいてくれた。 だが、それを良いことに快く思わない奴らがいた。 「おい。」 「何だよ。」 ある日、同じクラスの男子生徒の3人が、俺が座っている机に囲むようにニヤニヤしながら話しかけてきた。 いわゆるガキ大将のデブと部下だ。 そいつの一言でクラス中が静まり、何だ何だと見物する人や、クスクスと笑う女子も多数いた。 実に嫌な雰囲気であったが、毎回いじめ的なものにも慣れたので、別に気にはしなかった。 「関係ないだろうが、テメェらには。」 「いやあるね。だってお前、小3の時からズボン履いてるんだろ?俺の親が言ってたぜ、あれは何かあったんだろって。」 「・・・。」 「おい、はっきりしろよ変態。」 「!!」 「や~い変態変態!」 「お前、女なのにズボンとかおかしいだろうが、さっさとスカート履いてこいよ男女っ!!」 俺はカッとなって椅子から立ち上がり、ソイツらの一人の右頬を力一杯ぶん殴った。 俺を侮辱したんだ。我慢できる訳がなかった。   一人が倒れて気を失った後、残りの二人が俺に睨み付けて言った。 「テメェ、何しやがんだっ!!」  「何も知らない癖に俺の素性に触れたからだ!!」 そして、2対1の喧嘩が始まったが、途中、誰かが呼んで来たのか教頭が来て事は収まったが、その後、こっぴどく怒られた。 そして、俺は問題児となってしまった。 当然、友達など出来るわけがなく、喧嘩が絶えずただ月日が過ぎるだけだった。友達など、自分には要らないと思ったからだ。 そんなある日、俺が喧嘩の後、傷が絶えなくて保健室に怪我を治しに行くのが日課であったが、そこで、ある女の子と出会あうことになるとはこの時の俺は知らなかった。 「失礼しま~す。お~い坂上先生、今日も来たぞ~。」 いつもの様に保健室の先生に手当を頼んだだが、今日は誰もいなくて保健室内はやけに静かだった。 「・・・いないのかよ、仕方ない、自分でするか。」 中に入り、棚から救急箱を取り出そうとした瞬間、 「何か様なの?」 「!?」 後ろから声をかけてきたもんだから俺は思わず肩がびくりと大袈裟に上がってしまった。 俺は振り返って相手を見て目を見開いた。そこには、日本人形みたいな黒髪の白のワンピースを着た女の子が笑みを浮かべながら立っていた。 俺は思わず言ってしまった。 「に、日本人形・・・。」 「誰が日本人形よっ!!まったく失礼しちゃうわね。」 「・・・お前、幽霊じゃないよな?」 「~!!」 バッチーン!!! コイツは頭にきたのか、思いっきり俺の頬をぶっ叩いた。 [newpage]  あまりの痛さに思わず叫んだ。 「痛ってー!!何しやがんだよっ!!」 「貴方、女子に向かって酷いこと言ったとは思わなかったわけ!?」 「だってお前、他の女子より綺麗なんだもんよ。しかも、可愛いいし、幽霊に見えるのは悪いことなのか?」 「~!!もう良いわよ、さっさと座りなさいよ!!」 「・・・おう。(何だコイツ・・・怒ったり、赤くなったり変な奴。)」 コイツが指で指しているパイプ椅子に座った。そして、コイツは慣れた手つきで俺の頬に消毒をし始めた。 「痛っ!!・・・もうちょっと優しくしろよ!!」 「うっさいわねちゃんとやってるわよ。貴方、毎日こうやって傷負って来るわけ?」 「仕方ないだろ、相手が喧嘩ふっかけて来るんだからよ。俺はやり返す!!・・・そのパターンだからよ。上級生だって相手したこともあるんだよ。まぁ、俺が勝ったんだけどな!!」 「上級生相手に!?やるわね……ところで、両親は何も言わないの?貴方がこの状態で帰ると心配するんじゃ・・・。」 「別に、喧嘩が絶えない娘だから呆れて何も言えないし、つか、馴れた感じみたいだからな親は、ところで、先生は何処に行ったんだよ。」 「先生は今日は出張中よ、だから、変わりに傷の手当してるのよ。」 「・・・そうか、お前何で此処にいんだよ。」 「私、身体が弱いのよ。」 「・・・本当に?」 「もう一度ぶたれたい様ね。」 「すいませんでした。」 「フフフ、でも本当のことよ。昨日から転校したばかりだけど、発作がいつ起こるかも分からないから保健室で一人で勉強してるのよ。慣れて来たら教室に入ることも出来るけど今はまだ駄目だって。」 「へ~」 「まぁ、職員室近いから万が一、発作が起きてもすぐに来てくれるってわけ。」 「は~」 「貴方、何で女の子なのに、ズボン履いてるのよ。」 「・・・何でそれを聞くんだよ。」 「貴方の噂、聞いたから本当のこと知りたくて。」 「!!・・・お前には関係ないだろ。」 「・・・確かにそうね、ごめんなさい。貴方とは一度会ってみたかったのよ。」 「その理由は?」 「貴方と私、何だか似てるのよ。」 「変な奴に捕まったな俺は・・・。」 「何ですって?」 「いえ、何も。」 「話しを続けるけど、貴方とは友達になりたいのよ。」 「どういう流れだよそれ。」 「だって貴方、カッコイイじゃないのよ!!女の子なのに喧嘩が強いなんてそこらへんの男共より良いわよ貴方!!」 「さっきから貴方、貴方五月蝿いんだよ!!俺は梅原透だよこの、日本人形っ!!」 「あら、友達になってくれるのね!!嬉しいわ、私の名前は永山紗智よ。宜しくね透!!」 紗智はニコリと俺の手を握りしめて俺の顔を見上げながら言った。 俺は何を言われたのか分からず数秒後固まってしまい、はっとしてようやく状況を理解して顔を真っ赤に染めてながら反射的に手を振り払ってしまった。 「誰がなるか日本人形が!!おだてても何も出ないんだかんなっ!!」 思わず俺は捨て台詞を吐いてアイツに言ってやった。 保健室のドアを乱暴にしめて、それからこの熱を冷ますように廊下を全力で走って行った。 「くそっ!!何なんだよアイツ、何なんだよ胸がドキドキするし、治まれよ早く!!何でこんなに頬が熱いんだよ、これもアイツの性だ―!!」 「フフフ、照れてながら怒っても迫力がないわよ。」 紗智が、クスクス笑っていたことに知る由もなかった。これが、紗智との出会いだった。 その後、暇となっては保健室でよく遊びに来るようになり、残りの小学校生活は紗智との交流、勉強に充てたりした。 売られた喧嘩は勝っていたけど、中学校に入る前に両親と一緒に精神科に行った時、初めて俺は自分の症状を知ることになった。 簡単な検査が終わり、医師から症状を聞くため、両親が向かい合わせで座って医師に聞いていた。 「性同一性障害ですか?」 「えぇ、娘さんは、幼少の頃から発症しています。」 「そうだったんですか・・・。」 「先生、治る見込みは・・・。」 「今のところまだ分かりませんが娘さんの意志を尊重して聞いて上げて下さい。」 「分かりました・・・。」 「・・・。」 両親は複雑そうな顔で俺を見ていた。 だが、俺は安心した。俺はようやく自分の症状が知ることが出来て良かったと思ったから。 中学生の時は、スカートで履くことはやはり多少の抵抗はあったが、我慢して履いていたけど、やはり無理があって1年生の後半から上着は変わらずに、下だけはズボンを履き続けた。 両親は学校側に、訳を言ったお陰でもあった。 当然、周りの奴等だって俺に対して違和感を覚える。 ある女子が俺に聞いて来た。 「梅原さん。」 「何?」 「何で梅原さん制服の下はズボンなの?」 「それは・・・」 「あぁ、それって体調が優れないからよ。」 「そ、そうなの?ごめんなさいね。」 すると、クラスの女子は何処かへ行ってしまった。 「紗智・・・。」 「もう、女子には何でそんなによそよそしいのよ!」 腰に手を当てて頬を膨らます紗智に、俺は頬を紗智に、人差し指で押した。 その途端、空気が逃げて音が出た。 俺は思わず笑ってしまった。 「くく。」 「笑うことないじゃないのよまったく・・・。」 「いつもごめんな紗智。」 「良いわよ、素直に私に会うのが寂しかったって言えばいいのに。」 「ばっ、そんなんじゃねぇよ!!」 「うふふ。」 俺はもう全てのことを紗智に打ち明けていた。 「紗智・・・俺さ、性同一性障害なんだ。」 「!?」 「黙っててごめんな。俺さ、幼少の頃から病気だったんだよ。だから、ズボンを履き続けていたんだ。中学校では、死にたいって思うこともたくさんあったよ。環境が馴染めなくて、息苦しいこともあった。自身の身体を傷つけたりしたんだ・・・。でも、分かち合ってくれる人が少なかったんだよ・・・。」 「もういいわ……、辛かったわね。」 「・・・ひっく・・・ぐす・・・。」 紗智は俺を抱きしめて、背中をポンポンとあやしてくれた。 [newpage] 「確かに、そんなことがあったな。」 「えぇ、懐かしいわよね。」 時が経って、気づけば、俺達は18才になっていた。 紗智と俺は、違う高校に通い、俺の方は小・中学校とは違う高校生活に馴染むことが出来たので嬉しかった。 初めて皆の前で、性同一性障害と打ち明けた時もクラスの皆は俺を快く受け入れてくれた。 高校ではなるべく頑張ってスカートを着るように努力している最中だ。 紗智は発作が再開して今は入院中である。学校の方は停止状態になっているが、俺は様子を見によく病院を訪れている。 「いつもごめんなさい透。」 「何言ってんだよ、俺は謝れっていつ言ったんだよ。紗智の容体が心配だからこうして来てるんだから・・・。花持って来たから変えるぞ。」 「えぇ、ありがとう。」 俺は紗智の見舞いに持って来た花を変える作業に取りかかった。 紗智はそれを眺めながら見て、俺の方を見つめて言った。 「約束守ってくれてるのね。」 「紗智が切るなって言ったからだろうが。」 「うふふ、確かにそうね。」 小学校の時、肩に付くくらいの茶髪だった。俺は髪の毛が長くなったのでうざったくなったので紗智に切ろうかと相談した時、紗智は切るなと凄い形相で言っていたのを思い出す。 あの時は怖かったが、今は後ろに一つにして束ねている。 「髪の毛伸びたわね。」 「お前は変わらないな。」 「退院したら覚えてなさい。」 「ゴメンナサイ……。」 「じゃあ、帰るわ。またな。」 「えぇ、気をつけてね。」 紗智に手を振ってから、病院を出て一人で考えこみながら、道を歩いていた。 もし俺が男になっていたらどういう人物なのかと 世界は変わるのだろうかと そう有りもしないことを考えていたら 「危ないっ!!」 何処からか声がして、俺の真正面から1台のトラックが迫って来た。 「えっ?」 俺は赤信号を無視して渡っていたことに、気づくのが遅かった。 そして、トラックの急ブレーキの音がやけに遠くに聞こえてきた瞬間、俺の身体が吹き飛び、そして、俺は気を失ってしまった。   [newpage] 此処は……どこだ? 確かに俺は、トラックに嵌められて死んだ筈なのに。 まるで海の中にいるような感覚で暗くて何も聞こえない。 『―のよ』 「・・・・何だ?」 遠くから聞こえる声が段々と近づくにつれてやけに耳元に囁いているような感覚がした。 そして、 『あんたなんて誰にも愛されて来なかったのよ』 俺は咄嗟に目を見開いた。 「!!・・・ハァッ!!ハァハァ、何だったんだよ今の・・・つか、此処何処だ?」 見渡せば部屋の中で、俺はベッドの中にいたようだった。 上半身を起こしたままポツリと言った。 「俺の部屋じゃない・・・。」 よく見ると自室の漫画や勉強の参考書がなく、ベッドと机以外がバラバラに置かれていた。 「どう見たって俺の部屋だけど、俺の部屋じゃない……訳が分からないなこれ・・・ん?何だこれ。」 机に置かれてあったのは一通の白い手紙であった。 俺は起き上がり、手紙を開けた。 紙にはこう書かれていた。 『貴方がなりたかった性を捧げます 貴方と此方の身体の持ち主の精神は入れ替わっております。 さぁ、違う世界をお楽しみ下さい』 俺はその手紙を見て唖然とした。 つまり、俺は精神だけ入れ替わっていて、俺自身の方はこの人が、俺がいた界で俺の身体に入っている・・・まじかよ、本当にそんなこと出来んのかよ!?これってドラマか何かかよっ!! そう思いながらも、手紙を読み終えた後、手紙の裏を見てみたが、名前など書かれてはいなかった。 俺はふう~っと息を吐き出してから、意を決心した。 「・・・仕方ない、ちょっと鏡で見てみるか」 俺は立ち上がり、ベッドの隅に置かれてあった黒眼鏡をかけて、鏡を見た。 眼鏡は今流行りの眼鏡だからな。 「は~足長いな~、髪の毛茶色で眼鏡かけてって、・・・コイツ、モデルかよ。」 鏡を見た直後、あまりの美形に不覚にも驚いてしまった。 全体を見てみるとスラリとした足、整った端麗な顔、ラフな服装を着こなして漆黒な鋭い瞳が今、目の前の鏡に無表情で立っている。 どう見ても俺に似てるんだよな、俺って髪の毛地毛で茶色だし、ボサボサな髪の毛はコイツとは違うけど、雰囲気が似ている。 まさか、これが男になった俺なのか? そう疑問に思っていたその時、 「潤、いるか?」 堂々と、ドカドカと部屋に入って来たのは髭を生えた、小太りの中年の親父だった。 誰だ? 「何だよ、いるんなら返事くらいしろよ。」 困った表情で言う中年親父に、俺はまさかなと聞きたかったことを聞いてみた。 「・・・お父さん?」 「ぶっ!!何なんだよお前、いつもは白熊だとか親父とか言う癖に、今日のお前変だぞ!!くくくっ!!腹が痛いわ!!」 突如、吹き出したこの中年親父は、俺の世界の方の男体化した母である。ふくよかな体型で顔がつり目な長い亜麻色の髪の毛、あの面影は、本当にこの中年親父に良く似ているのでいち早く分かった。 俺はムッとしながらも親父に言った。 「仕方ないだろ、寝ていたから寝ぼけてたんだよ。」 本当にそっくりだ。 皮肉めいたり、小馬鹿にする言い方をするのは、この人(母親)しかいない。 「そうかよ、ならいいんだ。夕飯出来たから降りて来い。」 親父は、笑みを浮かべながら部屋を出ていった。 言い忘れていたが、白熊は俺が考えた。 肌が白くて怒ると恐いという意味で名付けたあだ名だ 怒ると襲い掛かって来るから恐い。 俺は御飯を食べながら親父にあることを聞いてみた。 「なぁ、親父。」 「何だ?」 「母さんはいないのか?」 その言葉を聞いた瞬間、親父は箸を止めて俺の方を見て信じられないと言った様子で言葉を発した。 「お前・・・母さんのこと忘れたのか?」 親父は悲しそうな目で俺を見た。 「いや・・・思い出すのはきついだろう、お前にはあのことを・・・。」 何だよ、親父。 何でそんな悲しそうな目で俺を見るんだよ・・・? 理由を聞きたいけど聞く勇気がなかった。 一体何が起こっているのか知りたいと思った。 だから、俺は無理な笑顔で親父に言うしかないんだ。 「そう!!そうなんだよ~。最近、物忘れが多くてさ、ただ何となく聞いただけだよ。」 「そうか……」 そこで、話は途切れてしまい沈黙が続いてしまった。 だけど、俺にはそれが心地良かったんだ。 気が付けば、月曜日になっていた。 俺は身支度を整えて。朝食を食べた後、学校に行く道を歩いた。 俺の通う学校は偏差値が低い田舎学校である。 別に勉強や目標とか色々と考えを持って入る人間はいるが、別に俺は家に近い方を選んだだけだった。 だって 目標なんて未だに決まっていないのだから。 そして、そんなことを考えていた時 「おはよう、潤!!」 誰かが俺の後ろから抱きついて来た。 [newpage] 俺は後ろから抱きついて来た女を振り返って目を見開いた。 そこには、俺と同じ高校の制服を身に纏った美人いや、美女が立っていた。 女は、日本人にはないブルーの瞳で、腰まである金髪を靡かせて俺に抱きつきながら上目遣いで笑みを浮かべながら俺を見ていた。 俺は見覚えのない奴だと思ったが、何て言えばいいか分からなかったが、もしかしてコイツの【彼女】なのかと理解して平常心になりながら声をかけることにした。 しかも、笑顔付きで。 笑顔引き攣ってねぇかな俺・・・。 「おはよう、朝から抱きついて来たからびっくりしたよ本当に。」 「ふふ、昨日の仕返しよ♪」 「・・・何かしたのか俺?」 「何言ってんのよ、とぼけないでよ。私の大事な髪飾り取ったでしょ?」 「俺がか?」 「そうよ、早く返しなさいよ。」 「・・・じゃあ、名前は何て言うんだお嬢様?」 「は?」 「早く。」 「宮野アリシアよ。」 「・・・そうか。」 「!!て、ちょっと待ちなさいよ!?」 俺は右のポケットに入っていた青色の薔薇の髪飾りを渡し、女を離して先に行ったが腕に絡みついて来る女に離す気力もなく、確信がついことが分かった。 この世界の俺は彼女がいること。 ましてや高校の同級生と付き合っているということになっていたこと。 実に面倒くさいと思う半面、頭を抱える羽目になった 『またさぼったってたのかサバサバ女---』 ・・・あいつか、ブルーの瞳で日本人にはない色白の肌。  よりにもよってあのハーフ男の女体化バージョンと付き合っていたのか、おいおいおい冗談じゃないっ!!!    宮野ルイスという男が、高1の頃に、この高校に春に入学して、俺と同じ普通科に入った。あいつは母親が日本人で父親がイギリス人で何せ端整な顔立ちなもんだから女子に人気だった。 成績優秀、スポーツ万能。俺とは無縁な存在。サボりがちな俺とは、天と地の差だった。   なのに、 あいつは他の男子とは違う接し方をする。 『お前、どうして皆に距離を置くんだ?』 『お前には関係ない、俺に関わるな。』 『俺はお前と話して見たかったんだよ。』 『・・・変なヤツ。』 暇さえあれば俺に話しかけてくる、他の女子は大勢いるのに、お前に話たい奴だってたくさんいるのに・・・。やっぱり変な奴だ。 「・・・仕方ない、こうなった以上付き合うしかないのか。」 俺は考えた挙句、その方法で行くことにした。 高校に着いてから、彼女は別のクラスだったことが分かって彼女と分かれ、自分が通っているクラスの教室へと入って行った。すると、入った瞬間、異様に視線が此方に向いている様な気がした。・・・何だ?時には悲鳴を上げる生徒もいて内心驚きながらも席へ着こうと思ったけど、席が分からないな。  一応、あっちの席と変わってるってこともあるし、近くの女子に聞いてみるか。 「ねぇ、君。」 「はいっ!!」 その子は真っ赤な顔で俺を見つめた。 「俺の席どこか分かる?」 「あ、あっちです!!」 そう指差す方向へ目配せをして、自分の席が分かり彼女にお礼を言った。 「ありがとな。」 「い、いえっ!!」 俺は席に着いて後ろであの子が潤君と喋れたわっ!!あの潤君と!!と、言いながら女子ときゃあきゃあ言っていたのはスルーしておこう。 「おはようさん潤。」 「はよ。」 俺は席について声をかけてきた奴をみた。瞬間よく話をしている仲の良い二人だった。 1人目が坂上美穂だ、美穂はバスケ部に入っていて正真正銘バスケ馬鹿だ。 バスケは凄腕でバスケ部が全国まで行ったのはコイツのお陰だとバスケ部メンバーは言っていた。仲間の信頼は熱い。授業中では根は真面目だが、バスケについて質問したりすれば話が止まらない奴だ。だが、他人を思いやる気持ちは一番強い。美穂はニヤニヤしながら俺に言った。 「しかし、相変わらずやな潤は~、アリシアちゃんと一緒に登校してイチャイチャしよって。しかも、俺よりモテやがって!!」 「嫌味にしか聞こえないんだけど。」 「だってそうやもん。」 「・・・。」 「おはよ。」 「あぁ、おはよう。」 「朝から女子が五月蝿いんだけど、お前のせいだぞ。」 「悪かったってチビ助。」 「表出ろやゴラ。」 「チビ助で何が悪いんだ、ん?チビ助。」 「上等だっ!!お前に絶対身長越してやる!!」 「はっ、身長越したらな俺に!!」 コイツは山田優香、俺より身長が低くて髪の毛が黒髪の眼鏡をかけているが、コイツは本当にいじりがいがある。 ヘタレで挑発すれば突っかかてくる。まぁ、料理が上手くて面倒見がいい奴だ。 ちなみに今話してるのは俺が女である世界の方を話している。 そんな他愛もない会話をしていたらチャイムがなり、HRが始まった。 *** 「梅原。」 「はい。」 「放課後生徒会のメンバーで文化祭の件で話し合いがあるそうだ。放課後集まる予定だから、頼むよ生徒会長。期待してるよ。」 「!?・・・分かりました。」 担任に呼ばれ、放課後生徒会の話があると聞かされて驚いた。まさか自分が生徒会に入っていて生徒会長になっていたのだから。 放課後、話し合いが終わり、生徒会室に一人残って自分のクラスの名簿を調べた。美穂が直樹で桜が拓也かよし、覚えた。あとは宮野アリシア母が日本人、父親がイギリス人か…変わらないな。 そして、いろいろと調べ物が終り教室に入って荷物をまとめて帰ろうとした瞬間 「潤、帰りましょ。」 アリシアがクラスの扉の前に立っていた。アリシアはニコリと笑ったが、反対に俺はまたかと呆れた顔でアリシアに言った。 「・・・待ってたのか。」 「貴方を待ってたのよ」 「・・・。」 アリシアは俺の傍に寄り、両腕を俺の首に絡みつけてきて、妖艶な笑みで俺を見た。 俺は表情を変えて、無表情になり、アリシアを見下ろして率直に言った。 「宮野、一つだけ言っておく。」 「えぇ、私も貴方に言いたいことがあるの。」 「俺は俺じゃない。」 「薄々気づいてたわ、今日の貴方は何だか変だったもの。」 「なら丁度良い、俺はこの1週間まで先週の俺とは違うことだけは言っておく。今はそれだけしか言えない。」 「そう、でも貴方自身が違っても、私は貴方を愛しているわ。」 「帰るぞ。」 俺はアリシアから離れて教室を出た。 アリシアは泣きそうな顔で俺の後について行ったのは知る由もなかった。 愛し方など分からないのだから。 恋人の振りする必要はなくなったから、これで良かったのかもしれない。 俺達は一言も話さず、俺はアリシアの家まで送り、アリシアが家に入るのを見届けた。 アリシアは家に入ろうとした瞬間、こちらを振り返り、また明日ね。と言い残して入って行った。 俺はアリシアの言葉より紗智が心配であった。紗智はこの世界ではどうしているか気になって仕方がなかった。俺はそんなことを考えながら、家へと帰る道を歩いて行った。 2日目 「なぁ、潤と拓也、バスケやらん?」 「お前は本当にバスケ馬鹿だな。」 「やだ!!誉めんといてや~。」 「「誉めてない」」 俺と拓也は声を揃えて言った。 1限目の授業は体育だったのだが、急遽自習に変更となりそれぞれ自由参加となった。俺はこのまま読書をしようとした瞬間、案の上直樹が来たというわけだ。 直樹はう~んとなにか腕を組み俺達を誘いこむ方法を考えていたようだった。数分してから、あっ!!と閃き俺達に顔を向き言った。 「俺の漫画本貸したる!!これでどやっ!!」 「面倒くさい。」 「却下。」 「何で・・・何で・・・二人共そんな冷たいんやっ!!俺泣くでっ!!」 「「泣けよ」」 「俺は・・・ヘタレやない!!ヘタレは拓也や~!!」 「誰がヘタレだよっ!!てめ、直樹!!」 直樹は泣き真似をして顔を覆いながら何処かへと向かった。大方彼処しかないと、俺達は溜め息を付きながらも拓也と顔を合わせて互いに苦笑して俺は言った。 「行くか拓也。」 「あぁ、あいつ人見知りだもんな。」 「チビ助に優しさなんてあったんだ。」 「なっ!!潤、俺のこと何だと思ってたんだよ!?」 「ヘタレのチビ助君。」 「~!!待てコラっ!!」 「ハハハ!!」 拓也は俺の挑発にまんまと引っかかり、顔を真っ赤にして、俺に反撃しようとしたのか、追いかけて行った。 俺は笑いながら逃げたが俺と拓也は体育館に向けて鬼ごっこもどきをやっていた。 そこに、直樹がいることも俺と拓也は知っている。そんな人見知りの直樹は、俺達は憎めないんだ。 その後、俺達3人でバスケをやった。 *** すべての授業が終わり、一応紗智の家に行くことにした。 紗智の家に行くまで道を歩いていた時、本人が目の前に偶然いた。 日本人形みたいな腰まである長い黒髪、こちらの世界では紗智の髪の毛は昔のままだった。 制服姿だったのか帰り道の途中なのだろう、俺は大声で無意識に叫んでいた。 「紗智っ!!」 その声でびくりと彼女は肩が上がってしまったが、ゆっくりと後ろを振り向き目を見開いた。俺は驚かせてしまったと少し後悔してしまったがもうそんなことはどうでも良かった。 俺は紗智の所まで小走りで走り、紗智に会えたことで俺は嬉しかった。だけど、彼女は下を向いて俺と目を合わせてはくれなかった。 そこで、感づいてしまった。紗智が・・・俺に怯えていたことにーーーーーーーー 「紗智元気か?」 俺が気軽に話したつもりだったが彼女は変わらず、俯くばかりでぶつぶつと言い始めた 「・・・なさい。」 「え?」 「ごめんなさい、もう、しないから。ごめんなさい私が悪かったんです・・・。」 「紗・・・智?」 「もう、関わらないから貴方には、だから、私に関わらないで!!」 彼女は泣きながらそう言い、俺の前から去って行ってしまった。 「何がどうなっているんだ・・・。」 俺はただ、立ち尽くすことしか出来なかった。 3日目 学校では2日目と変わらず授業を受けて終わった。だけど、放課後になってもずっと紗智のことを考えていた。 どうしてこっちの世界の紗智は俺に怯えるんだ? まるで、コイツ【潤】が紗智に何かをしたかの様に見えた。 ・・・まさか、そんな筈は無いよなと思っていたその時 「潤、潤っ!!」 俺が座っている机の目の前に、困った顔をしたアリシアがいた。 どうやらアリシアが俺の肩を揺すっていたらしい。 「何だ、宮野かどうしたんだ?」 「アリシアでいいわよ。それよりどうしたのよ貴方。ぼうっとして、何か考え事?」 「お前には関係ないだろ。」 「関係なくないわ!!」 「!?」 「私は、貴方の彼女よ。心配して何が悪いのよっ!!」 「おい、何泣いてんだよ・・・。」 「貴方はいつもそうだわ・・・私と話しても貴方は私のことをちっとも見てくれない・・・。いつも遠くを見てるわ。ねぇ、誰を思ってそんな悲しそうな瞳で見ているの?」 「……」 俺は直感した。 こっちの世界の俺は不器用な人間なのだと。 そして、異性の愛し方が分からないのだと。 俺に似ているな潤は本当に。 俺は自分が言った事を後悔して、アリシアに謝った。 「・・・俺が悪かったから、だからもう泣くな。」 「分かってるわよっ!!」 そうアリシアは言っても彼女は泣き止んでくれない。 どうしたらいいのだろうか。 ・・・そうだ。 「アリシア、手出して。」 「何?」 「いいから。」 そうアリシアは渋々両手を俺に差し出した。 俺はポケットに会った包み紙の一個のチョコレートをアリシアの手にそれをのせた。 アリシアはそれを見て目を見開いた。 「これ、チョコレート?」 「あぁ、お前にあげるよ。さっきの詫びだ。」 俺はアリシアが泣き止んだのを確認して、荷物を纏めて俺は教室を出た。 アリシアが俺が帰って行ったのを見た後、再びチョコレートを見つめた。 そして、複雑そうな顔で、チョコレートを見つめてポツリと言った。 「貴方は本当に不器用な人だわ。中身が違くても貴方は同じで、その不器用な優しさが私にとってはつらいのよ・・・。」 家に帰った後、居間でテレビを見ていた時に、ふと、洗濯物を取り込んで忙しそうにしている親父に、紗智のことを聞いてみた。 「なぁ、親父。」 「おぉ、何だ?今、洗濯もんで忙しいから手短にな。」 「紗智って子知ってるか?」 「あ~お前と小さい頃遊んだ子か。」 「そう、その子だよ。俺と昔何かあったのか?」 「う~ん知らないな、昔のことはもうあんまり覚えてないんだよ、すまねぇな。」 「そっか、ありがと親父。」 「お前・・・もしかして記憶喪失なのか?」 親父は不安そうに俺を見た。 俺はそんな親父の様子に苦笑しながら告げた。 「違うって、ただ俺が聞きたかっただけだから。」 と言うのが精一杯だった。 *** 夢の中で潤が立っていた。 よく見るとこっちの世界の本人、潤が立っていた。 俺自身の身体は、女に戻っていたが、目の前にいる潤が、俺を見て無表情で声を発した。 「お前が透なのか?」 「あぁ。」 「やってくれたなお前。」 段々と潤は、眉間に皺を寄せた顔で俺に言った。 一応、俺は謝ろうと思い、潤に言った。 「悪かったとは思ってるんだ。・・・ところで、そっちの世界の紗知は元気だったか?」 「!?」 潤は目を見開き、切なそうな顔で俺に言った。 「あぁ、元気だったよ。」 「なら、潤。お前はこっちの世界の紗知に何をしたんよ。」 潤はきょとんとして、数分も経たないうちに突然笑い出した。 「ふっ、あははは!!」 その反応に俺は段々と苛立ちが増していき、コイツをぶん殴りたい衝動を抑えて潤を睨み付けて俺は言った。 「何がおかしいんだよ、さっさと答えろっ!!」 「こっちの紗知?見れば分かるだろ、暗い奴さ。小さい頃から泣き虫で俺はアイツを見るとイライラしてどうしようもないんだよ。だからアイツに何度も俺から遠ざける様に苦痛を与えてやった。」 「お前、本気でそんなこと言ってんのか。」 「愛なんて所詮は形だけのもんなんだよ。そうだ、昔話をしてやろうか。小さい頃に俺は捨てられたんだよ母親に。」 「!?」 「父親だって捨てられたもんだよ。俺の親父は愛に一途だった。母親をずっと愛していた。なのに、母親は俺を産んですぐに別の男と遊んでいたよ。親父を利用して俺も捨てられた身だった。育児放棄だったよ、だけど親父はそんな俺の為に家事や育児、仕事を必死に頑張ってくれた。俺は親父がくれる愛情だけで十分だった。なのに、あの女は、親父が仕事で家にいなかった時、当たり前の様に居座っていたんだよ。家で留守番だった俺は、扉の隙間からこっそり見てたよ。忌々しいあの女が他の男とソファーで情事している所をっ!!!あの時は怒りで睨み付けることしか出来なかったけど、虫酸が走っていっそ殺してやりたかったよっ!!あの女は他の男に愛してるとかほざきながら言いやがった。最低女だよ。だが、2年後にあの女は交通事故で死んだ。俺の唯一の最高の幸せだったよ。だけど、俺達に降りかかってきたのは、あの女の多額の借金だったよ。余計なものを残していきやがった。何が愛だよ。何が愛しているだよ、女など信用出来るかっ!!愛なんて要らないんだよっ!!お前はこの苦しみが分かるか!?」 「分かるよ。」  潤は泣いていた。ずっと抱え込んでいた。思いを、俺にぶつけて来た。 寂しくて、必死で、親父しか頼れる人がいんかったんだ。 他の人の愛に恵まれなかったんだ。 悲しい人。こんなにもお前を思っている人は近くに、傍にいるというのに。 潤は泣き叫びながら俺に言った。 「お前に何が分かるっ!!両親に愛されたお前にっ!!」 「俺だって両親がいても自分が息苦しく感じる時だってあるんだよっ!!」 俺は知らないうちに涙が出ていた。 「俺だって・・・死にたいって思った時だってあるんだよ。苦しかったり、まわりの女の子と違うって自分でも思ってたんだ。息苦しかった時に、紗智に出会ったんだ。そして、仲間の大切さや絆を知ることが出来たんだ。」 「・・・。」 「だから、もうこれ以上紗智を傷つかせないでくれよ。あいつは・・・お前を必要としているから。」 「!?・・・この18年間、苦しい思いをしてきたんだ。俺は親父を負担がかからない様に内緒で必死に働いて借金を返したんだ。親父も、借金を返すために働いてたよ。あの時は苦労したんだ。5年が経ってようやく借金を全部返すことが出来て、俺と親父も本当に嬉しかった。お前の言う通り、俺は他の人間の愛仕方が分からない。唯一、愛していたのは親父と紗知の2人だけだ。紗知は、あの事件があった日も変わらずに接してくれた。でも、俺はそれを拒絶してしまった。俺はもうあの女のことで精神が不安定だったからだ。だから、俺はどう接すればいいか分からなくなって紗知を遠ざけてしまったんだ。俺は紗知を傷つけてしまった、ただそれだけだ。」 潤は今、後悔している。 なら、俺は。 「お前を信じるよ。」 「!?」 潤は大きく目を見開いた。俺はにかっと笑って言ってやった。 「だから、お前はずっと過去を後悔しているままだ。なら、前を見ろ。そして紗智と話して仲直りして来い。紗智はお前を待っているんだ。そして、お前を必要としているんだよ。」 「紗智が俺を必要としているのか?」 「あぁ!」 「・・・そうか。」 潤は安心したのか、苦笑しながら俺に言った。 「透。」 「何だ?」 「お前に頼みがあるんだ。」 「俺に?」 「あぁ、フランス人形を紗智に返して来て欲しいんだ。」 「フランス人形か、どうしてそれを?」 「俺は昔、紗智と遊んだ時に俺は紗智が大事にしていたフランス人形を奪ってしまったんだ。」 『返してよっ!!紗智のフランス人形っ!!』 『や~だね、お前ずっとフランス人形相手してるじゃんか!!』 俺はフランス人形と遊んでいる紗智に構ってもらえなくて寂しかった。だから、フランス人形を奪ってしまった。 『返してよ潤君っ!!』 紗智がフランス人形の右腕を引っ張った。 俺は負けじとフランス人形を俺の方へと引っ張る。 『いい加減離せよっ!!』 『嫌よ!!この子と遊びたいのよっ!!』 紗智が思いっきり引っ張った瞬間、ビリッ!!っと大きな引き裂くような音が聞こえた。そして紗智の手には引っ張ったフランス人形の右腕が握られていた。 当然、紗智は大泣きだった。 『うわぁぁぁぁぁん!!!紗智の人形がっ!!!』 『お前が引っ張るからだろがっ!!くそっ!!貸してみろ。俺が直すから待ってろよ!!』 紗智はフランス人形の右腕を俺に差し出してから俺の方を見上げながらこくこくと頷いた。 *** 「そんなことがあったのか。」 「あぁ。」 「分かった。渡して来てやるよ、つか、お前本当に紗知のこと好きなんだな。」 「お前、やっぱり男みたいだな」 潤は苦笑しながら言った。俺はそんなことも気にせずに潤に言った。 「男らしくて何が悪いんだ!!」 「お前には適わないな、ありがとう透。もう一度紗智に話してみるよ。」 潤は俺を見て微笑んでいた。 4日目 俺は紗智に会うべく授業終了後、紗智の通う学校の校門で待っていた。 「でかいな。」 紗智の通う学校はいわゆる女子校だった。 当然、学校の建物だって立派で俺の通う学校とは桁違いだった。 「そろそろかな。」 携帯画面を見れば4時50分をさしていたが、校門から女子がぞろぞろと出て来た。 皆、俺の顔を振り返って見る人もいれば、悲鳴をあげる人もってこれ前にもあった様な・・・。 俺の少し端にこそこそと喋っている3人の女生徒が俺を見ていた。 距離が近いもんだからこっそり俺は聞き耳を立てていた。 「ねぇ、あの人かっこ良くない?」 「確かに、モデルさん見たいだよね、声かけてみよっか。」 「でも、ちょっと恐くない?」 「「其処が良いのよ!!」」 「………」 潤って罪深いというか、案外モテんだな。 俺は、こういう経験ないから分かんないけど、モテる男は大変だな。 そんなことを考えながらぼうっとして待っていると、紗知が校門から出て来た。 俺は紗知に会うためにゆっくりと向かって行った。 あっちの世界の紗知とは違い、華奢で今にも崩れそうな脆い存在に見えた。他の人とは違い、惹き付けない何かが俺には見えた。 俺は咄嗟に紗智に話しかけていた。 「紗知。」 「!?」 彼女は振り返ってまた怯えた顔で俺を見た。 俺は紗知にもう一度声をかけようとした瞬間、彼女はまた逃げて行った。 「ちっ、くそっ!!」 俺はすぐに紗知を追いかけた。 *** 紗知が着いた先は公園だった。敷地内が広く、夕方なので人など誰もいなかった。紗知はそこで、息を整えて俺がいないことを確認していた。 俺は後ろから見ていた。 紗智が潤を嫌っていても、俺には用があるんだ。それを果たさなければ今が無いんだ。 勇気を振り絞って紗智に言った。 「紗知っ!!」 「!!」 紗知はまた逃げようとした時、俺は咄嗟に右腕を掴んだ。 「すばしっこいなお前。どうして俺から逃げるんだよ?頼むから、俺から逃げないでくれよ、ただ、お前と話したいだけなのに俺を見てくれ紗知。」 彼女はゆっくりと俺を振り返り見た。 その瞳は酷く濡れていて泣いていたのか跡が残っていた。震えているのか身体がガチガチいっている。 俺は落ち着かせる様に紗知に言った。 「とにかく落ち着いて、ゆっくりでいいから。」 「貴方、一体誰なの?」 紗知は俺の正体をまんまと見破られてしまった。 「!?・・・分かってたのか?」 「潤はこんなことしないもの。」 俺はぼそぼそと話す紗知を見て言った。 「じゃあ、初めましてかな。俺は梅原透って言います。俺と潤は理由があって魂が入れ替わってるんだ。」 「え、そうなの?」 彼女は信じられないような顔で俺を見た。  他人からすれば普通の反応である。  俺は苦笑しながら紗知に言った。 「紗知に渡したい物があるんだ。」 「?」 「これだよ。」 俺は袋に入れてあったフランス人形を差し出した。 「これ、どうして貴方が・・・。」 「渡してくれって潤に頼まれたからさ。」 「・・・そう、ありがとう。」 紗知はゆっくりと人形を抱きしめて笑みを浮かべていた。 そして、俺は鞄から手紙を取り出し紗知に渡した。 「紗知、これは潤からの手紙だ。」 「潤から?」 「潤がお前に伝えたかったことがこの手紙にぎっしり詰まっている手紙だ。だから、元気出せよ。透からのお願いだ。」 「・・・。」 紗知は手紙を開けて目で追い始めた。 そして、紗知の目から涙がどんどん止まらなく溢れて流れていった。 「嘘、どうしてこんなこと一人で抱え込んでいたの?」 紗知はぼそぼそと言った。手紙には、こう書かれていた。 『紗知へ、言葉では言い表せないからこの手紙を書いた。俺は小さい頃、親に捨てられたんだ。そのせいで、近所や同級生も、俺を異様な目で見たり、噂が絶えなかった。だから、俺と一緒にいるのは冷ややかな目で見られるだけで気まずかったから、お前を遠ざけた。酷いこと言ってごめんな、中学の時も中々話しが出来なくてごめんな。母親が残した借金を返す為にバイトしてたんだよ。それから、フランス人形壊してごめんな。妹みたいな可愛い紗知、ずっとお前を愛してる。だから、俺のことは忘れて幸せになってくれ。                                                 潤 』 紗知は手紙を握りしめ叫んだ。 「忘れることなんて出来ないわよっ!!貴方が優しいことだって小さい頃から知ってるわよ、幸せになってくれって無理よ、貴方が、貴方が好きなのにっ!!。」 「紗智は事件があった時、潤の異変に気づいてたのか?」  紗智はこくりと頷いた。 「あの日は学校に来た時、様子がおかしかったの。瞳が虚ろ目だったわ、私だけ潤の異変に気づくことが出来たわ。潤に、直接聞いてみたけど、拒絶されて俺に話しかけるなって言われたわ。」 「!?だったら、どうして潤から逃げているんだよ。潤はもう、あの日から随分経って、ようやく自身の身が落ち着くことが出来たんだ。お前と話すのを待っているんだぞ。」 「・・・。」 「強気な女だろ紗智は、もう猫被りするのは辞めろ。」 「透と言ったかしら?」 さっきの態度とうって変わって、紗智が、再び泣きそうな顔で戸惑いながら俺を見た。 「潤はそれを望んでいるの?」 「おう!!今まで会えなかった分、アイツと来週からどんどん話せば良い。」 「来週、話してみるわ。」 「自身を持て、紗智!!」 俺は紗智に微笑んで見た。上手く笑えてたかな俺。 「透、ちょっとやって欲しいことがあるの。」 「何だ?」 「抱き締めて欲しいの。」 「紗智、おいで。」 俺は、微笑みながら、両腕を広げた後、紗智は思いっきり、俺に抱きついた。 紗智は泣き叫んでいた。 「何で貴方がこんな目に遭うのよ!!貴方は何もしていないのに!!」 胸が苦しく感じた。 俺は紗智を抱き締めて、紗智の背中を泣き止むまで傍にいた。 *** 「ありがとう、透さん。」 「良いよ別に、来週になったらちゃんと潤と話して仲良くしろよ。つか、紗智って意外と大胆なんだな。」 「!!」 紗智は真っ赤になって下を向いてしまった。 俺はそれを見てクスクス笑ってしまった。 そして、紗智もおかしくなったのか俺を見て、吹き出して笑ってしまった。 「ふふ、こんなに笑ったのは久しぶりだわ。本当にありがとう透さん。」 初めて紗智が、心から笑っていた瞬間だった。 暗い表情ではなく、暖かい笑顔で俺を見つめていた。 此方の世界で初めて見た笑顔。 俺はあっちの世界の紗智に会いたくなってきたな。 5日目 残りの時間が迫って来た。 あと1日になってしまった。 ここの世界での俺の知り合いは中身は変わっていなかった。 たとえ、姿形が変わっていたとしても優しい人達ばかりだった。 ただ、まだ2つだけ心残りがある 1つ目は宮野アリシアだった。 俺の世界での宮野は、何処かこ馬鹿にした様に俺を見る。 だが、こっちの世界のアリシアは、潤を恋愛対象と見ている。 どうして付き合っているのかを、潤に聞くしかない。 俺にはもう時間がない。 本当のことを聞かないといけない。 「で、俺にそれを聞きたかったと。」 「あぁ。」 俺はもう一度潤と話がしたいので夢の中で再び会うことにした。夢の中で会うのはこれで二度目である。 いつも夢で会うってわけではないからな潤とは。 潤はため息をつきながらも俺に言った。 「アリシアと俺は、本当に何もないんだ。あいつが俺に付き合ってくれってしつこかったんだよ。」 「それでか、お前はアリシアのことをどう思っているんだ?」 「友達にしか見えないんだ。」 「お前、どうするんだよ。」 「月曜日に終わらせる。」 「別れるのか?」 「あぁ。」 「そうか。なら、潤。お前はまだ真実を全部知らずにいる。」 「何、どういうことだ?」 潤は俺の言葉に疑問を持ったが、俺は潤に言った。 「潤、それはお前の父親が知っている。」 「!?おい、待て!!」 そして、視界が歪み、目覚めが訪れる知らせだった。 潤は叫んでいたがそれはどんどん遠くへ響くだけであった。 そう、潤はまだ知らずにいるんだ、親父がいつも何か言いたそうにいることを。 それは俺が知るべきではないことだ。 潤とこっちの親父が、真実を言うことで、潤は救われるから。 ちなみに6日目は生徒会関係のメンバーで、他の県外の高校に行って交流会というやつで1日が瞑れた。だけど、なかなか味わえなかった体験に、俺はこのままでいたいなと無償に思ってしまった。 ・・・本当はいけないと分かっているのに。 そして、とうとう7日目が訪れた。 俺はまず、親父に全て話した。 潤ではなく、梅原透という少女が潤の魂に入っていて、これまでのことを全て話した。 親父はそんなこと知っていたとばかりにけろっと言った。 「知ってたわ、そんなことは。」 「へ?」  親父は俺の反応を見た後、盛大に吹き出して爆笑した。  俺は苦笑して頬をポリポリ掻いて親父に言った。 「知ってたんですか。」 「あぁ、親は子供の異変に気づくのは当たり前だからな。」 「そうですか、なら良かった。」 「話てくれてありがとう透さん。」 にかりと笑う目の前の人に、無性に自分がいた世界に帰りたいと思った。 俺は親父に思いを託して言った。 「親父さん。」 「何だ?」 「潤にホントのことをもう教えても良い頃なのではないでしょうか?」 「!?君は、知っていたのか」 「勝手だとは分かっているのも承知です。ですが、潤はまだ苦しんでいる。」 「・・・。」 「潤を、救ってやってください。」 「あぁ、分かったよ。」 「一週間お世話になりました。」 「こちらこそ、ありがとう。」 そう、俺達は互いに感謝しながら握手を交わした。 親父と別れた後、俺は友達に会いに行った。 今日が終わりって思わないぐらい、ゲーセンに行って遊んだ。カラオケだってした。 俺が誘ったのに、2人は別に良いと言って奢ってくれた。 ホントに2人らしいなと思った。 あっちの世界では、結構行っているのに、こっちでは中々遊ぶ機会なんて滅多になくて、俺が携帯で電話したときは2人とも嬉しそうに行きたいと言ってくれた。 俺は嬉しかった。 2人に出会えて本当に良かった。 「今日は楽しかったわ~、ほんま誘ってくれておおきに!!」 「俺も、お前らと遊んで楽しかったよ。ありがとう。」 そう言って2人は言った。 「なら良かったよ。でも、ごめんな、なんか俺が奢るべきだったのに。」 「ええよ別に、俺ら潤に助けてもらってるばっかりやから。」 「え?」 「俺が、高1の頃かな~俺が、不良に絡まれてる所に潤が突然やってきたんや。そして、不良達全員ボッコボッコにしたんや!!」 「・・・。」 「あの時の潤、めっちゃカッコ良かったわ~。そんで俺、お前ともっと話がしたくて話かけたんや。最初はお前、全然打ち解けてくれへんかったよな~。でも、次第にお前は俺達に少しづつ開いていったわ、俺はそれが嬉しいんや。」 「!!」 「ほんまにありがとな、これからも友達でいてな。」 直樹は目を細めてにかっと笑いながら俺に言った。 直樹は拓也に目配せをして、拓也もおずおずと俺に話をした。 「俺も、残りの高校生活、潤ともっと遊んだりしたいと思ってるこれからもよろしく 。」 拓也は照れ隠しなのだろう、目線が合っていないのが不覚にも可愛いと思った。 弟がいるとこんな感じなのかな? やばい・・・ 涙が止まらなくなる。 俺はぐっと泣くのを堪えた。 そして、俺は2人に感謝を告げた。 「あぁ、これからもよろしくなっ!!」 *** 取りあえずアリシアからいくか。 時間がないので電話で話すことにした。 ・・・電話するのも久しぶりだな。 俺は、着信履歴を探して見つけて通話ボタンを押した。 そして、数秒後、アリシアが出て来た。 「もしもし」 「アリシアか?」 「あら、潤じゃないのどうしたの?」 「今忙しいか?」 「大丈夫よ、今休憩に入ってるから。」 「そっか、なら俺に教えて欲しいことがあるんだけど。」 「何を?」 「梅原潤を好きになった訳を聞きたいんだ。」 彼女は高校生ながらもモデルをやっていた。勉強と仕事と両立してやってるのが凄いなと思った。 「!?・・・どうしてそんなことを?」 「今日までなんだよ、潤ではない俺が入れ替わってる期限は。」 「そう、深くは聞かないわ。分かった、良いわよ。私、本当はね、対人恐怖症だったのよ。」 「!!」 「産まれたのがイギリスだけど、パパの転勤で私が5才の時に日本に来たわ。小、中学校はお嬢様学校だったけど、私は窮屈飽きたわ。一々気遣いしないといけないし、疲れてたから。それで、田舎の高校に通いたいって両親に言ってやったわ。」 都会は窮屈だから田舎でのんびり高校生活満喫したいって、私。親の反対押しきって此処に来たの。そして、彼に出会った。 彼は遠くから見ると絵になる人だった、入学して初めて席が、彼と隣だった時、親切に分からなかったこと全部教えてくれたわ。 「・・・」 「笑っている彼が大好きだった。だから、私は告白したの。」 [newpage] 「潤。」 「何だアリシア。」 「潤が好き、好きなの。」 彼は、目を見開き、悲しそうな瞳で私を見て言った。 「アリシアごめん、」 「分かってるわ、でも、一緒にいるだけで良いのっ!!お願い。」 「俺はお前のこと友達以上にしか見えないんだ、それでも良いか?」 「良いわよ。」 私は胸が痛んだ。 彼には私のこと友達にしか見えなかった。 それ以上の感情を持っているのは私だけだったということ。 悲しかったわ。 「そういうことだったのか。」 「はっきり言えば失恋よね私。」 「聞かせてくれてありがとな。」 「良いわよ別に、貴方は潤じゃないもの。だけど、もう、そろそろ終わりね。」 「?」 「こっちの話。」 『アリシアさん、休憩終わりです!!』 電話口からアシスタントがアリシアを呼んでいる。 「分かりました。もう時間ね、貴方とこういう話をするのも変だわ。」 「俺もそう思う。」 俺達は互いに笑いやった。 そして、俺は言った。 「ありがとな、アリシア。最初の時さ、俺、人見知りなもんだからどう接すればいいか分からなかったんだ。だから、ごめん。」 アリシアはクスクスと笑いながら言った。 「良いわよ別に、それじゃあね。」 「あぁ、1週間今までありがとな。」 「此方こそありがとう。」 「さようなら。」 彼氏と彼女が別れるのってこういう感じなのかなってふと思った。 *** 「後は紗智だけか。」 俺は最後に紗智に会うべく道を歩いていた。 何を話そうか、また俺は考え事をしててやらかしてしまったんだ。 俺は油断していた。目の前に階段があったことを。 「!?」 俺は咄嗟に目を瞑ってしまい、また強い衝撃が来るのかと思っていたんだ。 だけど、どういうわけか意識が途切れてしまった。 最後に紗智にお別れを言いたかったのに。 おかえり、透 そして、さようなら 「!?」 俺は目を開いた。 俺は どうなったんだ? 「透?」 俺は声が発した方を見た。 そこには、涙を浮かべた母、父、高校の友達2人が此方を見ていた。 「透、お母さんよ、分かる?」 「!?・・・おかあ・・・さ・・・ん。」 「えぇ、お母さんよ!!貴方!!」 「あぁ、医師を呼んで来るよ!!」 「えぇ、よろしくお願いします!!」 父さんが病室を出た。 俺は、理解した。 此処は病院で俺はベッドにいて1週間も寝ていたのだと。 「透、私らのこと分かるか?」 「美穂、優香・・・。」 「「!?」」 2人は途端に涙を流した。 「ふぇ本当に良かった。透が生きてくれて良かったわ~うわぁぁぁん!!!」 「・・・。」 優香も静かに涙を流していた。 「・・・母さん嬉しいわ、紗智ちゃんの他に、こんなに素敵な友達2人が透の友達で、美穂ちゃんと優香ちゃんね、授業が終わった後、必ず透の見舞いに来て来れたのよ。」 「・・・ありがとう。」 「うん、早く退院していっぱい学校で話そうね。」 「おかえり、透。」 2人は笑みを浮かべていた。 だけど、 俺には会わなくちゃならない人がいるんだ。 さようなら―― 何故だが胸騒ぎがした。 俺は点滴を引き抜きベッドを降りて、直ぐ様、アイツに会うべく病室を出た。3人の声を聞かずに。 この先に待ってる残酷すぎる予感が当たっているのも知らずに。 「嘘だろ?」 目の前に起きていることが嘘の様に見えた。 紗智の病室なのに、紗智のベッドで両親が泣いていて、紗智の顔に白い布が覆っていて。 裸足で走って来た足から全身に冷や汗がどっと出て来る。 「紗智、おい・・・紗智、何してんだよ。」 俺は紗智のベッドまで、ゆっくりと歩き、紗智を揺すって言った。 「おい、返事ぐらいしろよ日本人形っ!!」 「透ちゃん辞めて頂戴っ!!この子はもう死んでるのよっ!!」 「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」 俺はその場で泣き崩れた。 *** 「紗智が亡くなったのは何時くらいですか。」 「さっきよ、あの子ね肺炎だったのよ。」 「!?」 「・・・何も聞かされていなかった様ね、あの子はね、外界の刺激に反応しやすかったの。体内に埃やら細菌が入ると異常反応して喘息、咳が止まらなくなる。その様な場合は隔離する他なかったわ。」 「元気になって学校に行って貴方に会いたいと行っていたわ。」 「本当に貴方が大好きだったのね紗智は。まさか、貴方と入れ違いで亡くなった何てね・・・。」 「!?」 まさか、そんなことが   あり得るのか!? 「俺が生き返ったのが夜中の1時でした。紗智も1時に亡くなったんですか?」 「えぇ、その時刻だったわ、・・・偶然ね。あ、貴方に渡す物があったわ。」 「これは?」 「携帯よ、本当は手紙で書きたかったみたいだけど、時間がなかったみたいだから送信履歴を押せば、メールで文章が書かれているわ。」 「……」 俺は紗智のお母さんに手渡された紗智の携帯を開いて送信履歴を押して画面を見た。 内容は驚く様な真実だった。 『透へ このメールを見た時は私はこの世にいないと思うわ 私は小さい頃から肺炎を患っていた。貴方とは違って運動が出来なくて、外で遊ぶ人達が羨ましく感じたの。 でも、貴方と出会えて貴重な体験が出来たわ。 私はね、貴方とは違う能力を持っていた。 人を別の世界に移動出来る能力を。 貴方は当然、1週間違う世界で戸惑ったみたいだけど、楽しんでもらえたかしら? 私はもう長くはないからもう思い残すことはないわ、透、貴方は幸せになるべきよ。 人と出会い、愛を知りなさい。 貴方と親友になれて良かったわ。 さようなら my dearfriend』 「紗智、俺はまだお別れ言ってないんだよ、なのに、先に逝っちまいやがって、何で黙ってたんだよ。・・・だけどもう、お礼しか言えないよな・・・ありがとな。俺もお前が親友で良かったよ。さよなら紗智、ありがとう・・・。」 [newpage] 5年後 「皆、席に着けよ~。」 「梅原先生おはよう!!」 「あぁ、おはよう。」 「じゃあ、HRを始めるぞ。」 「梅原先生、ちょっといいか?」 「お?宮野先生ひょっとして梅原先生に告白か?」 「そうだと言ったら?」 「ヒューヒューッ!!」 「お前ら冷やかすなっ!!松下お前放課後居残りな、宮野先生もいい加減生徒の言葉に真に受けないで下さいっ!!」 「そりゃないッスよ先生~!!」 「本気なのにな~俺。」 「!?・・・もう、良いですから大方職員会議でしょうから、お前ら各自自習だっ!!」 そう言って俺は教室を出て行った。 今、俺は教師をしている。 宮野も転勤で此方に来たみたいだけど、今は、楽しく就職活動してます。 「梅原。」 「何か。」 「お前が障害を持っていても、俺は、お前が好きだからな。」 「宮野先生。私は簡単に堕ちませんよ。」 「上等だ、振り向かせてみせる。」 人生に一度しかない生涯を無駄にしてはいけない。 自分が歩んでいる道が正しいとは限らないのだから。 【透sideEND】 [newpage] 【潤side】 俺の母親は最低な人だ。 一度も俺に構ってはくれなかった。 「おかあさん、ぼくとあそぼうよ」 「あっちに行って頂戴。何であんたに構わなくちゃならないのよ。」 母親に構ってもらいたくてソファーに座って煙草を吹かしていた母親に声をかけた。一緒に絵本を読んでもらいたくて、あの時は馬鹿なことをしたと後悔している。 だけど、俺を見た後、面倒くさそうな態度で言った。 「おかあさん、ぼくのこときらいなの?」 「えぇ、嫌いよ。だから部屋に戻ってなさいよ、アンタなんて誰にも愛されてなかったのよ。」 「!!」 母親が潮笑って俺に言った言葉に、深く傷ついた。 俺は俯いて自分の部屋へと戻って行った。 そして、俺は母親に憎しみを抱いた。 あの女は母親ではないとそう思う様になった。 だから、 嫌いだ母親なんて――― 目が覚めた場所は自室の部屋だった。 1週間アイツの身体に憑依して中々味わえなかった体験をすることが出来た。 アイツの周りにいる皆が暖かく感じた。 俺はベッドを降りてリビングに親父がいることを確認して言った。 「ただいま」 「おかえり潤、座りなさい。」 「?・・・あぁ。」 親父にそう言われて椅子に座った。 丁度、親父と向き合う形になった。 親父は言った。 「お前は将来パイロットになりたいと言っていたな。」 「まぁ、言ってたな。」 「その将来の為に、お前に話さなきゃならないことがある。」 「何だよ、話って。」 「母さんのことだ。」 「あの女の話だと聞きたくない、要件はそれだけかよ。」 「話を聞け潤っ!!お前は真実を知らなくちゃならないんだっ!!」 「!!」 「母さんは病気だったんだよ、重い心臓病だったんだよ。俺と母さんが、経営していた店の借金を、返す為に必死で働いていたんだ。」 「!?」 「病にかかってまでお前の衣服やら食費分、学費を払う為もあり、お前の将来の為にな。」 「う、嘘だっ!!!信じられるか!!アイツは俺にお前は誰も愛されていなかったと言ったんだぞ!?」 「そのことは母さんから聞いた。ストレスで不安定だったんだよ、俺は、母さんから潤に酷いことを言ったと泣いて後悔していたよ。」 「親父はあの女が他の男と情事してるとこ見てないだろうが。」 「彼女はホステスで風俗でも働いていた。その相手をしてたんだろう。」 「俺をずっと騙してたのか?」 「・・・すまなかった。でも、お前はもう十分苦しい思いをしたんだ。もう、お前は晴れて自由の身だ、だから父さんはお前は将来に向かって頑張って欲しい。」 「・・・親父。」 「幸せになりなさい。」 親父から発せられた言葉に、驚きが大きかった。 そして、もうここから自分で自立して行かないといけないと理解した。 俺は紗智にメールで昔、一緒に遊んでいた公園に来て欲しいとメールで打った。 紗智は良いよとメールで返信が来た。 俺は自転車で漕いで行った。 紗智は俺より先に来ていた。 紗智は白のワンピースを着て、カーディガンを羽織り俺の方を向き、にこりと俺の方へと近づいて来た。 「・・・紗智。」 「潤。」 「・・・あの時は悪かった、酷いこと言って。」 「潤。」 「何って・・・!?」 紗智は思いっきり俺の方を叩いた。 俺は目を見開き、紗智を見た。 紗智はすっきりした様に、清々しい顔で俺に言った。 「大好きよ馬鹿っ!!会えなかった分たくさんアンタに会いに行くんだからね!!」 「俺も、これからもよろしく。」 紗智は微笑んで俺に抱きついてキスをした。 俺はそれを受け入れて抱き締め返した。 晴れて俺達は恋人同士になった。 こんなにも紗智が変わったのは、透のお陰かもしれない。 *** 「アリシア、別れよう。」 「やっと答えが出たのね遅いのよ。」 俺はその翌日、放課後アリシアを呼び出した。 アリシアはけろっとした表情で俺に言ってのけた。 「すまないとは思ってるが、今日で偽の恋人同士は終りだ。」 「そうね、貴方と例え偽の恋人同士になれて楽しかったわ。貴方は私に振り向いてはくれなかったけど、楽しかったわ、ありがとう。」 「お前は俺の親友だ、大切な友しか思えないんだ。ごめんな。」 「じゃあね、2年半ありがとう。」 「あぁ。」 俺は教室を出た。 教室からアリシアの背中が震えていることに俺は気づかぬ振りをした。 6年後 「わーん!!おかあさん、おとうさんっ!!」 「どうしたのお嬢さん?」 「あのね、おとうさん、おかあさんがいないの!!お兄さんは知ってるの?」 「あぁ、お兄さんが連れていってあげるよ。」 「うわぁぁぁぁん!!!おかあさん、おとうさんっ!!」 「もう、だからはぐれないのでって言ったのに。すいません、本当にありがとうございます。」 「いえいえ、良いですよ。」 「本当にありがとう。」 そして、潤は礼をして、夫婦共にお辞儀を返した。そして、3人の家族は行ってしまった。 潤はそれを見送って見つめていた時 「おかえりなさい。」 「紗智、待ってたのか。」 「妻なのに、迎えに来ちゃ悪いの?」 「別に、行くぞ。」 「貴方らしいわね、でも、夢が叶って良かったわね。」 「あぁ、嬉しいよ。やっと自分がなりたかった職業に就くことが出来たからな。」 「うふふっ!!私も幸せだわ。貴方と結婚して幸せだもの。」 「・・・。」 「まぁ、照れてるわ。うふふ!!」 この世には摩訶不思議なことが起きることもある。 もしかしたら自分がその不可思議なことに巻き込まれるかもしれない。 信じるかは貴方次第である。 END
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加