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第一章 暗黒の闇、そして微かな光
僕の学校生活は、中学校に入学したところで何も好転することはなかった。運動も苦手で人付き合いも苦手なままだった。
僕は相も変わらず、周囲に溶け込めず、いつも一人、図書館で本を読んでいた。結局、僕は場所を変えたところで、友達なんてできなかった。僕はひたすらそんな自分が虚しかった。
そんな中、クラスの中一番の人気者で、スポーツ万能な原井廉也だけは、僕に何かと優しかった。とはいえ、人付き合いの苦手な僕に、普通に話しかけてくれた、ただそれだけのことだった。でも、孤独だった僕にはそのことが何よりもうれしかった。それに、その廉也にはほんの少し、翔の面影があったのだ。
僕はだんだん彼を「友達」とは別の目線で見るようになっていった。その感覚は、あの水泳教室で、翔を見ていたときと同じものであることに僕は気がついた。
体育の時間に廉也が着替えていると、どうしても気になって彼の方をチラチラ見てしまう。授業中も、廉也の様子が気になって仕方がない。彼にはじめて直接手が触れた時、僕の鼓動は一気に高鳴った。
だけど、今回は翔のときとは違う。僕と翔は言葉を交わすこともない関係性のまま別れてしまった。それに対して、廉也は僕のことを個人として認識してくれている。しかも、僕は彼と友達だ。僕はそう信じていた。
僕は、廉也を追い続けた。授業中も彼からずっと目を離せない。廉也が入ったバスケ部に追うように僕は入部した。もちろん、運動音痴な僕に、バスケなどできるわけもなかった。僕は入部して以来ずっと雑用係。でも、彼のそばにいられることがうれしかった。
ところが、だんだんそんな僕の様子を、周囲の人間は次第に奇異に思うようになっていった。
「因幡、原井のこと好きなんじゃねぇの?」
「ホモかよ」
「きもちわりぃ」
そんな陰口があちこちから聞こえて来るようになった。僕は動揺した。
ホモってなに?
僕はただ、廉也のことが好きなだけなのに、それはそんなにおかしいこと?
僕が廉也と仲良くしていると気持ち悪いの?
僕は混乱した。でも、次第に僕は、自分が廉也を友達以上の存在として見ていたことを自覚せざるをえなくなった。僕は廉也に恋愛感情を抱いていたのだ。僕は男なのに、男である廉也を。
そんなことってあるのかな?
僕はその事実を受け入れがたかった。だから、僕は自分の廉也への想いに蓋をした。そのまま、友達のままでいられればいい。今のままの関係でいいから、廉也のそばにいたい。僕にはもう廉也しか見えていなかった。廉也はそんな噂が立っても相変わらず、僕と話をしてくれた。僕はそれがうれしくて、相変わらず廉也を追い続けた。
そんなある日、僕が登校すると、自分の下駄箱の中にとある手紙を見つけた。見ると、その手紙は廉也からのものだった。「放課後、校庭裏にきてほしい」そう手紙には書かれていた。
僕は胸をときめかせた。今まで、廉也とは話こそすれど、二人きりで会ったことなど一度もなかった。でも、彼は僕に親しく話をしてくれる。その事実だけで僕は幸せだったのだ。周囲からどんなに陰口を叩かれようが、僕には廉也がいてくれる。それだけで、僕は廉也と共にいる時、そこが自分の居場所だと感じることができた。その廉也から個人的に会おう、と誘われている。うれしくない訳がない。
どんな用事なんだろう?
二人きりで何を話すんだろう?
その日は一日中落ち着かず、そわそわしていた。授業中も集中できず、廉也の方をチラチラ見ては放課後の「密会」に想いを馳せた。
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