恋だった

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 時刻は八時を過ぎていた。すっかり冷めたカフェオレを片手に誰もいなくなったオフィスで佇む。優大は今日、協力会社との打ち合わせらしい。いつも優大が座っているデスクの椅子を眺める。隣の椅子に腰掛け、くるくると回る。  優大の隣――。  いつも当たり前にそこにいた。  ――隣、座れば?  そういう優大の言葉に受け身になってそうしていられたけど、私はこれからもずっと、隣にいられるのかな。  ふと、そんなことを思う。  エレベーターの音がして聞き慣れた靴音が近づいてくる。優大だった。 「あれ、まどか。まだいたのか?」 「うん。優大はどうして?」 「ああ、PCの充電器忘れてて。明日は朝から客先に直行だろ」 「……ねえ」 「ん?」 「なんでもない」  言ってから、言いかけたことを後悔してすぐに口をつぐむ。 「なんだよ。らしくないな」  優大が、いつものように柔らかく微笑むので、胸がきゅっとなって思わず口を開く。 「私、さ。この先も優大の隣にいられる?」 「え? あー、お前、明日のプレゼン不安なんだろ?」  優大は茶化すように言いながら、充電器のコードを丁寧に収納して鞄にしまいこむ。 「ううん。そういうことじゃなくて」
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