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優大は結婚する。それはイコール、優大の隣にいる権利は、もう私にはないということ。そんなの、優大に彼女ができたときから、そうあるべきだし、想定できたことじゃないかと、心の中の私はクールに言い放つ。
そうだよ、わかってる。最初から、優大の隣に当たり前にいられたことが奇跡みたいなもんで、その奇跡に奇跡だと私は気がつかなかった。
これが、この気持ちが「好き」と同じ意味を持つことに、今の、今の瞬間まで気がつかなかった。
優大は何かを察したように、
「何言ってんだよ、別に仕事はなんも変わんないよ」
穏やかに言う。
「うん、そうだけど、そうじゃなくて」
――好き。
言えない。言ってはいけない。
でも、「好き」が溢れて、止まらない。こらえて、耐えて、右掌をぐっとして、唇を噛む。
何も書かれていない、いつものホワイトボードを背景に、優大は静かに立っている。
私、知らなかった。
優大のことが好きなんだ。
でも、ここで、終わり。
終わらせないといけない。
無理に笑顔を作ろうとするのに引きつってうまくいかない。
「帰らないの?」
「……」
「じゃあ、気をつけて、帰れよ」
エレベーターホールの向こうに消えていく優大の背中を見つめながら、暗いオフィスフロアの中心で廊下の光を追った。ブオン、とエレベーターが降りていく音を確認してから、体の中心に集まった力を抜き、息を吐く。
決定的に、失ってからこんな想いが芽生えるなんてばかだ。今更気がつくなんて。
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