レンタル御札

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「……あっさりフラれたよ……」 「ん〜。でも、先輩も忙しいって理由だしさ。タイミングが悪かったのかもよ ? 」 「そうかなぁ ? 」  今日、親友の真美がフラれた。  相手は一つ上の学年の本田先輩。私から見ても、二人の関係は良好で脈アリって感じだったんだけど……。 「真美、元気出して」  先輩が忙しいって言うのは……多分、嘘だと思う。  でも、あんなに仲の良かった真美を選ばないなんて私も考えなかったな。 「元気とか……簡単に言わないでよ ! 景子はなんとも思ってないくせに ! 」 「真美……。ご、ごめんね……。でもそんな事……」  かける言葉がない。今は何を言っても、真美を傷付けてしまうかも。  その時だった。 「ふふ。そうだよ、あんた。人の心なんて、そんな安い言葉で救えるもんかぁ」  商店街の一角。 『占』という半紙が貼られた台のそば。  猫背で小さな身体のお婆さんが座っていた。 「やっ……安い言葉なんかじゃないです ! 少なくとも、言葉は上手く出ないけど……元気を出して欲しいって私の気持ちに変わりないです ! 」  あまりな事を言い出すから、自分でも引くくらい食いついちゃったよっ ! 「あんた名前は ? 」  真美も胡散臭そうにお婆さんを見下ろしてる。 「高田 真美……です」 「なるほどなるほど。まぁ、色恋なんてそんなもんさぁ。男なんて星の数ほどいるだろぉ ? 元気出しなよぉ」  何なのこのババア !! 「お婆さん ! そういう問題じゃないです ! 」 「おやぁ ? あんたは真美ちゃんに『そういう事』を言ったじゃないか」  うぐぐっ !! 「まぁ、年の功だね。あたしなら本当に真美ちゃんを励ます事が出来るよォ ? 」 「え !? 」  するとお婆さんは台下から数枚の御札を取り出した。 「ちょいと、ほら、お座りよ」  何だか場の空気に飲まれてか、真美と私は椅子に座った。 「じゃあ。そうだねぇ……落ち込んでるんだから……『明るくする御札』を貸してあげるよ ? 」  そんな魔法じゃあるまいし。  真美も苦笑いで御札握らされる。  結局、こういうのって気の持ちようとかで、御札の高いレンタル料とか取られたりね。見るからに怪しいし。  あ、なんか座ったの後悔してきたかも。 「真美、やっぱり帰ろう」 「え〜〜〜 !! ヤバーーー !! 御札とか、これホントに効くんだけど〜きゃはははっ」  明るくなっとる !! 「ま、真美……さっきまで……」 「あ〜、先輩のアレさぁ〜。絶対嘘じゃん〜 ? ムカつくよねマジで」 「ちょっ !! 待って待って待って !!  お婆さん !! 効きすぎ !! 喋り方まで変わってる !! 」 「ありゃ、効きすぎたかねぇ ? 」 「効くか効かないかの問題 !?  え、ってか。お婆さん凄くないですか ? 」 「そりゃあ、あたしプロだもの〜。  じゃあ、こっちはどうだい ? 」  お婆さんは二枚目の御札を真美に握らせる。 「ま、真美 ? 」  見るのが怖い……。 「……あいつ。許さない ! 」  え……。なんかギンッってなってる !! 「お婆さん、この御札は ? 」 「これは『気持ちを静める御札』だよ」  静まってる ? 「私をフッた男なんて、牛丼食いすぎてカエルのように腹が爆発四散すればいい !! 」  静まってないよ !!  燻ってるよ !! 何かドス黒いのが燻ってるよ !! 「お、お婆さん !! 他の無いの !? もっと前向きなやつ !! 」 「じゃあ、これかねぇ。『競争心の御札』」 「やな予感しかしないっ !! 」  ええいっ !! ままよ !! 「景子、あんたさ……」  私っ !? 「……家に帰ってから私を笑うんでしょ !? 」 「笑わないよっ !! 真美 !! しっかりして !! 」 「出し抜こうったって、そうは行くもんですか !! 」  もういいよ !! 「真美、帰ろ !! ファミレスにでも行って落ち着こ ? 」 「私を豚にするつもりねっ ? 」  ダメだこりゃ !! 「お婆さん !! 他の無いのっ !! 」 「あいよ」  埒が明かないよっ !! 「……」  あれ !? 今度は固まっちゃった !? 「今のは ? 」 「それはぁ〜……あ〜 ? なんだったかねぇ ? 『固茹で』としか書いてないねぇ」 「……。この私に男なんて必要無い……鬱陶しいだけよ」  なんか悟ってる ! 「あぁ、これはどうかね ? 」 『芸術』って書いてあるけど !? 「夕暮れ時の雑踏〜♪堕天使の私は葛藤〜♪」  なんか歌い出した !! 「お婆さん !! ちゃんとしたのちょーだい !! 」 「ええいっ、五月蝿い !! これをお持ち !! 」 「『急く強い』 ? 『セクシー』じゃないの ? こんなのダメだよ !! 」 「じゃあこれだよ !! 最後だよ !! 」 「……あ、景子……」 「真美 ? 戻った !? 」 「う、うん。ごめん、何だか凄い威力で……」  はぁ〜〜〜。良かった。 「どうなっちゃうかと心配したよ〜っ」 「ごめんごめん。もう大丈夫だから。帰ろ ? 」 「うん」  二人で席を立つ。 「酷い目にあったよお婆さん !! もう来ないからね !? 」 「イヒヒ」  何だか変な人……。 「なんか、どうでもよくなっちゃったね……」 「うん。色々凄かったね……。  そう言えば、最後の御札……」 「あ、持ってきちゃった……」 「それは、なんて書いてあるの ? 」 「…… ??? 」  信号待ちで立ち止まり、真美の握ってる御札を見る。 「あれ ? 」 「うそ……真っ白 !? ネタ切れ…… ? 」 「……。きっと、違う。  景子、さっきはごめんね」 「えっ !? 」 「本当に心配してくれてたのに。私ったら八つ当たりなんかして……」 「そんなこと……」 「あのお婆さん……それを分からせてくれたのかも……」 「……どうだろね ? 」 「ファミレス行かない ? 愚痴きいて ? 」 「もちろん行く ! ふふ」 「あはは ! 」
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