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***
それから。
自分がどうやって家に帰ったのか、覚えていなかった。
私は一人で家に帰ったはずだ。シャワーを浴びて、カップ麺を食べて、そのまま泥のように眠って、それで。
そう、普通にベッドで眠った、そのはずなのに。
「な、なにこれ?」
これは夢、なのだろうか。
どうして私は、真っ暗闇の四角い箱の中にパジャマで入っているのだろう。両手両足を折りたたまれ、酷く息苦しい。酸素も薄いし、何より寒い。
カチカチと歯をならしながら内側を探っていた私は、そこがどこだか気が付いて文字通り凍りついた。
「こ、ここ……冷蔵庫!?なんで!?」
それも、この観音開きのドア。私のアパートの冷蔵庫ではない。
このままでは凍死するか窒息死するかの二択だろう。慌ててドアを開こうと、縋りついて叩いた。
「あ、開けて!お願い、開けてよ!」
観音開きのドアが、どうにか僅かに開く。オレンジ色の光が内部に点灯した。髪を振り乱し、外に見える白い光に手を伸ばそうとした。しかし。
「!」
飛び出した手は、誰かに無理やり冷蔵庫の中へ叩き戻される。ドアが再び閉められた。
どうして。私は此処にいるのに。人がいるのがわかっているのに、何故閉じ込めようとするのだろう。抗議の意味をこめてドアを叩いた瞬間、私の耳に聞こえてきたのは。
「そのまま消化されなさいよ」
聞きなれた女の、笑い声。
「お前はウソツキなんだから、ウソツキなんだから、ウソツキなんだから!!」
私は絶望の中で理解した。
あの時私が必死になって閉じ込めて、消そうとしたその相手は。
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