長いスピーチ(後)そして完

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長いスピーチ(後)そして完

「だけど 僕だって少しずつ大人になっていて 歳重ねていくと 色んな人との出会いとかも会って 最近では 過去の事なんてどうでもよくなっていました 二人がどんなふうに思ってたかは知らないけど こんな俺だって モテ期はあって 大学では彼女だっていたし 社会に出てからも 良い感じになった子もいなくもない ただ 今、たまたま彼女がいないだけで 全然、普通に生きてるから 妙に心配したり “かわいそう”なんて感覚で二人から思い出話されるのは ごめんだからさ だから 今日来た お前らが呼ぶから ちゃんと ケリをつけようって・・・ そうしなきゃ お前ら ずっと 俺の事をかわいそうな奴って思うだろ? バカにすんな もう進んでる 時間は常に進んで 気が付かないうちに お前らや俺は変わっていって 不幸だったことも 不運だったことも 不実だったことも こんなに時間がったったら 全部含めて 過去の思い出だよ だろ? どっかで清算しないと 悲しすぎるだろ? 俺たち親友だったんだから 久実ちゃんも 俺の初恋の人なんだからさ いつかは笑って話さなきゃ 辛すぎるだろ! お前らも 前に進め!! 結婚式の招待状が 式の一週間前に郵便受けに入っていました 一週間前 常識なさすぎなのか?迷いすぎなのか? 誰が出したのか? どんな意図で出したのか? 全く分からない中 一週間悩みました どうせ 返信日はとうに過ぎているので 列席しようなんて思ってもいませんでした ここに来ても 10年近く会ってないのに どんな顔で会えばいいか 正直、分からなかったから でも 今朝、やたらと早く目覚めると やたらと天気良いし 体も軽く動いてしまって ココに来てしまいました “今日しかない” って、思いました 式場の人に「サプライズで」と協力していただき この時間をいただきました 少々強引になってしまいましたが 有難うございます ま、そうですね 行き当たりばったりで ココで話をさせていただいていますので はなしめちゃくちゃで 分かる人には分かるけど 分からない人には全く何やらの話でしょうが お付き合いいただき 有難うございました 僕から二人へは この辺で 十分に伝えられたので そろそろこのスピーチも終わらせていただこうかと思います 最後に 二人に言いたいことがあります 今日、式場の人に祝儀を預けて帰る もう僕たちは社会人で大人なので お祝いのお返しはしっかりしてください しかし 一週間前に元親友に元カレに招待状を送る様な 常識に欠ける二人なので お返しの内容は僕が決めておきます! 蒼汰!飲みに連れていけ!! そんで 俺たちがなくしてしまった10年の話をしろ 全部しろ 久実ちゃんのこと あれからどう二人が歩んできたのか? 俺も知らない久実ちゃんの事も聞かせろ! めっちゃのろけていいから・・・ 全部・・・全部・・・ っで、そん時に 心の底から“おめでとう”って俺に言わせろ! 久実ちゃん メッチャ奇麗だよ メッチャ奇麗 だけど残念ながら 俺の彼女だった時の久実ちゃんの方が俺はタイプだから 奇麗だけど 可愛いけど 見とれちゃうけどさ 今の久実ちゃんは好きじゃね~から もう全然、好きになんかなんねーから 安心して 幸せになれ 蒼汰なら大丈夫だ 久実ちゃんは・・・見る目ある! 蒼汰はいい男だ! 以上です 良い結婚式に水を差すような長い話・・・すみませんでした では、失礼します」 そう言って 二人の方を見る 蒼汰は柄にもなく涙目で 久実ちゃんは 化粧なくなっちゃってほゞスッピンになってしまうくらい号泣 そんな二人に後ろ手で手を振り 背中を向けて 会場を後にした 会場のドアが閉まる寸前 大きな拍手が聞こえた これで良かったんだ “成功” って事だよな・・・俺 少し自分に酔っていると 追いかけて来たプランナーの人が 「斎藤さん!!ビックリしました 途中、止めた方がいいかと思うくらい 強烈なお話でしたが 最後には会場全体が感動していました 有難うございました」 そう言いながらキャピキャピしながらついてくる 「別に 貴方にお礼を言われるためではないので 俺の自己満足のために来ただけです あっ・・・そうそう これ 二人に渡してくださいね」 少し厚みのある祝儀袋 プランナーはそれを大事そうに持ち 一礼する そして振り返ることなく 式場前のタクシーに乗り込む ドアが閉まり 車が走り出すと やっと落ち着きが戻る 緊張したなー でも なんか今まで痞えていたものが無くなって 今までにないほど爽快だった 窓の外に見える 青空は 今の心を表す様だった 「お客さん 良い結婚式だったんですね」 運転手さんがバックミラーから俺の顔を見て言った 「はい」 そう一言、返して 微笑む 左ポケットに入っていた コンビニのATMの明細を見る 「祝儀・・・恰好つけすぎたかな・・・ 今月は自炊だな」 そう呟いて 少し笑った 喚起のために少しだけあいた窓から 爽やかな初夏の匂いが入って来た
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