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「え?」
「まず目を閉じて」
ひゅうがが戸惑っていると、
「はやく!」
と、だんごむしが急かした。
ひゅうがは言われるままに目を閉じた。
「次に両手を広げて大きく深呼吸」
すー。はー。
「そのまま繰り返して」
すー。はー。すー。はー。
「いいわよ、その調子。次に息を吐く時はそのまましゃがみこんで」
ひゅうがは、ゆっくり膝を曲げた。
「体を丸くして出来るだけ小さくなるのよ!」
だんごむしが叫んだ。
ひゅうがは、足を抱えて丸まった。
くるん。
自分がボールにでもなったような、不思議な感覚がした。
思わず目を開けて、ひゅうがは混乱した。
なんだ?
草のすき間から、夜空が見えた。
もうこんなに暗くなっちゃったんだ。
帰ったら絶対に怒られる!
でも、そんなことはどうでもいいくらいびっくりすることがあった。
覆い被さってきそうな大きな草。
土の匂いがとても濃い。
僕は寝っ転がっているの?
自分の体を見て、ひゅうがはぞくりとした。
「僕、だんごむしになってる!」
「どう? あなたの大好きな虫になれたのよ。 嬉しいでしょう?」
ひゅうがは心臓がばくばくして冷や汗が出ている気がした。
でもだんごむしに心臓はあるのかな?
冷や汗は出るのかな?
「僕、ずっとこのままなの?」
「心配しなくても大丈夫よ。 1日でもとに戻るわ」
「本当?」
「ええ。 だからそれまで存分に楽しみなさいな」
ひゅうがは、ようやく落ち着いた。
もとに戻れると分かって、それまで隅の方で小さくなっていた好奇心が、むくむくと顔を出して来た。
「でも、何をしたらいい?」
「ついてきなさい。 みんなに紹介してあげるわ」
たくさんの足をわさわさ動かしながら、ひゅうがはだんごむしの後を追った。
数えてみたら全部で14本もあった。
案内してくれているだんごむしは、「しらたき」という名前らしい。
足が一本だけ白くて、それをとても誇りに思っているようだった。
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