ひゅうがの不思議な体験

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夕方の鐘が鳴るまでに帰れば大丈夫。 ひゅうがは、途中の公園で水を飲んでから空き地に向かった。 舗装されていない坂道を一気にかけおりる。 最後ちょっと滑ってヒヤリとしたけど、なんとか転ばずにすんだ。 「うわあ!」 思わず声が漏れた。 ものすごい数のちょうちょが飛んでいる。 目をつむったまま網を振っても捕まえられるんじゃないかな。 右足の近くの葉っぱを、大きな青虫が這っている。 バッタがぴょんぴょんしているのが見える。 ひゅうがは夢中で網を振るった。 ふと気づくと、辺りが朱に染まっていた。 額の汗をぬぐいながら、ひゅうがは、あれ?と思った。 まだ鐘は鳴っていないと思うけど。 そう考えている間にも、空は朱から濃い青へと変わっていく。 「帰らなきゃ!」 ひゅうがは、弾かれたように走り出した。 坂道を半分ほど登ったところで、一息つきながら何気なく左手の虫かごを覗きこんだ。 一匹のだんごむしが底を這っていた。 「あれ、いつ入り込んだんだろう?」 だんごむしは捕まえた覚えがなかった。 もっとよく見ようと虫かごを顔の前に持ち上げた。 「やめて、あんまり揺らさないで!」 ひゅうがはビクリとして危うく虫かごを落とすところだった。 「気持ち悪くなっちゃうわ!」 また声がした。 「誰?」 そう囁くひゅうがの声は、震えていた。 辺りを見回しても誰もいない。 だんごむしが2本の触角を振っている。 まるで手を振るように。 「もしかして…君?」 「もしかしなくてもそうよ。私をどこへ連れて行くつもり?」 ひゅうがは、意外と冷静な自分に驚きながら応えた。 「もう遅くなるし、帰ろうかと思って」 「まあ! それなら私たちを置いて行きなさいよ。私たちこのまま連れて行かれたら、みんな家族と離ればなれになっちゃうわ」 虫が家族と離ればなれ? 考えたこともなかったな。 「全く、人間はいつだってかってなんだから!」 だんごむしはぷりぷり怒っている。 他の虫たちも、そうだそうだと言うように飛び回った。 「ゴメンね、今ふたを開けるよ」 ひゅうがは名残惜しかったけど、だんごむしの言う通りにした。 みんなわらわらと虫かごから出て来て、それぞれの居場所へと帰っていった。 一番最後にだんごむしがのそのそと出て来た。 「あなた、虫が好きなの?」 「うん、大好き! 虫取りは苦手だけど、虫を好きな気持ちなら誰にも負けないよ」 「ふうん」 だんごむしは触角をぴこぴこ動かしながら続けた。 「だったら今から私の言う通りにしなさいな」
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