レンタル法律

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レンタル法律

 なんでもレンタル屋。その店の前に、一人の男が立っていた。その男の名は石氷矛盾。此処にはDVDを借りにやってきた。石氷が求めているDVDはとても珍しいものだ。今まで、沢山の店で探したが、見つからなかったのでなんでもレンタルするという、この店に来たのだった。  店内は、明るかった。早速DVDコーナーに向かった。流石、なんでもレンタル屋。其処には例のDVDが置いてあった。DVDを持って、直ぐにカウンターに行った。会計をする。カードは、と聞かれたので、無いと答える。すると店員さんが突如、こういった。「法律、レンタルしますか?」法律。国家や連邦国家の構成単位の議会の議決を経て、あるいは、統治者ないし国家により制定される、主に国民の自由と財産を制限する実定法規範。それをレンタルできるんだって?俺はどういうことかを聞いた。すると店員さんはこういった。 「此処に魔法の六法全書があります。其処に書いてある項目を消すと、例えば窃盗罪を消した場合、窃盗をしても誰にも咎められることはありません。違法ではないからです。ですが、注意があります。消してから、10分が経過すると、その消した項目が復元されます。10分経つ前に、ペンで消した項目を復元することも出来ます。  あと、鉛筆、又はペン項目を付け足すことも出来ます。  どうですか?レンタルしますか?今から二時間以内に返却していただければ大丈夫です。レンタル料金は10万円です」  俺は悩んだ。10万円だって?高い。でも、これで法律を無視できるのは安いもんじゃないか。俺が選んだ選択はー ー「か、借ります」上ずった声でそう答えた。店員さんはにんまり笑ってみせると、「はい、ではお払いください」と云った。幸運なことに財布の中には10万円がぴったり(こんなこともあるものだ)、入っていた。それを渡すと店員さんはまたもにんまり笑って見せてから、 「鉛筆と消しゴムがないようですネ。レンタルしますか?」といってきた。借りようと思ったが、もう財布の中は空っぽだ。借りるのは諦めることにした。  そして俺は、DVDの入った小さなバッグと六法全書を腕に抱えて店を出たのだった。  車に戻ろうとした所、駐車場に何か光るものがあることに気付いた。近づいてみると、それはペンだった。その隣には消しゴムもあった。これは何という天運!俺はそれを拾い上げると車に乗り込み、家路に向かった。  家につくと直ぐにあの六法全書は本当に魔法の六法全書なのかを確かめた。先ずは、名誉毀損、侮辱の項目を消す。外に出てみて、通りかかった人に馬鹿野郎、護美、屑、鈍間、阿房と云ってみた。だが、厭な顔をされただけで訴えるぞッとは言われなかった。だが、考えてみればそりゃあそうだ。馬鹿、阿房と言われたからって訴えるという人はいない。しかも相手は突然、馬鹿等と言ってくる、一般的に見れば頭の少しおかしい、若しくは、頭の螺子が何処か外れた人だ。歯向かったらどうなるかわからない。だから通りすがりの人のあの判断は、正しい判断なのだ。  う〜む。こうなると…。次は通りすがりの人の物を盗んでみた。窃盗罪を消したのだ。そうすると、何と、その人は厭そうにするだけで、反抗(犯行ではない)もしなかった。  不法(今は一時的に合法)侵入やナイフを持ち歩いたり人を殴ったり蹴ったり(「正」当防衛を「不」当防衛にした)、人に物をねだったり、詐欺をしてみたりした。だがどれも厭な顔をするだけで(詐欺は相手は気付いていなかった)訴えたりはしなかった。今まで挙げたものは直ぐに飽きてしまったので全て10分以内に復元した。  どうする?今までのは直ぐに飽きてしまった。う〜む。俺は考えた。そして。そして。そして。或る一つのアイディアに至った。それは。  俺は家を出た。そして車に乗り込むと、嫌いな友達(もうそれは友、ではないのだが)の家に行った。面白いものを見せてやるよ、と云ったのだ。電話で。家につくと、インターフォンを押した。それから家に入りなよ、と奴は言うのでそれに従った。入ると直ぐに面白いものとはなンだ、と言われた。  俺はそいつにじゃあ、後ろを向いて待っててと云った。彼がそうしている間に俺は六法全書の殺人罪を消した。そしてまだかい、と俺に言う嫌いな友達に分厚い辞書を頭にボガン!と投げつけた。友は倒れた。  それから俺は其の家を出た。車で猛スピードで自分の家に戻った。すると、家の鍵は、開いていた。鍵、締め忘れたっけ?と疑問に思いつつもドアノブを回し、家の中に入る。そして中にはいると、中には先程、俺が、殴って蹴った人間がいた。そいつは銃を、持っていた。ヤバい。早く復元しなければ。殺人罪を。そして六法全書を探したが、見つからなかった。自動的に復元するのを待つか?いや、のほほんと待っている間に撃ち殺されてしまう。  コツコツと軽快な足取りで、侵入者ー俺が先刻、蹴り殴った奴ーは近づいてくる。軈て、ゴツと鈍重な音がして、俺は氣を失った。たった一つのミスを犯したがために。
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