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四
突然跳ね起きた松坂長叛。しまった! と声を上げて辺りを見回すと、向こうの山から朝ぼらけの日が、ゆっくり昇って来るのが見える。涼しい朝の風が鼻を心地好く突いた。
おのれ……と、長叛は悔しそうに歯軋りして、飛び起きる。またしても、庚申の日に眠ってしまった。何がいけなかったのだろう。彼には分からない。ただ確かなのは、昨夜もまた、体の中にいる憎き虫どもが天帝の許に報告に行って、寿命が縮まったということだ。
次第に昇りくる朝日を見つめながら、長叛は唸り声を洩らした。その眼は今ではなく、六十日の後にくる庚申の日を見据えている。
今度こそ、今度こそは……そう呟く長叛の頭上を、寝起きの鳶が鳴きながら飛んでゆく。村に目を向ければ、あちこちで昇る白い煙。
庚申待を終えて、元の、いつも通りの暮らしが始まろうとしていた。
(了)
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