支店は閉鎖になったので

1/1
216人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ

支店は閉鎖になったので

正直、MBA取得のためとはいえ、ここからの2年の勉強はつらいかなと思う。学費も2000万円くらいが相場とも聞いていたし。転職するなら、MBA必須と言われる外資企業も多いと聞いていたので、取れたらいいなぁとは前々から漠然と思っていたところだった。でも今の年齢からの2年は負担感が半端無いだろうって思ってた。 でも彼らが言うように、1年なら。MBAホルダーなら、転職の際、外資の会社にアプローチしやすくなる。これから転職を考えなきゃいけないなら、取得していたほうが良い条件の職場が見つかり易いに決まってる。 俄然、MBA取得に興味を持った私は、ミーティング後にはリサーチを開始していた。もう誰も業務に真剣に取り組む姿勢は見られなかったから、丁度よかった。 学費、これからの準備期間にしなけらばならないこと、事前に必要な書類、推薦状などなど。 そしてMBA取得後の転職の展望も考慮し、私は結論を下した。 これなら流川玲子さんとの約束は、結果的に、一応守れるだろうし。 そのかわりと言っては何だけど、R&Gホールディングがスポンサーになっているスカラーシップを私も使わせてもらえないか、打診できないか。そんな計算を始めていた。日本にいる時、R&Gについては、結構リサーチしていたので、彼らの社会貢献活動なんかも把握していたから。 流川玲子とコンタクトをとり、事情を話せば、思いの外、私の背中を押してくれる回答だった。 返済不要のスカラーシップを会社として用意しているから、日本に帰ってこないなら、特別枠で受給できるようにしてあげてもいいと確約をとれてしまった。よほど、私を帰国させたくないらしい。 バタバタと用意に時間を費やしていれば、支店閉鎖の時なんてすぐだ。 お涙頂戴的な送別会もなにもなく、段ボールに私物だけを入れ、社員が一人また一人とオフィスを去って行く。 いろんな情報提供をしてくれたジェシーはフィアンセとの結婚をまず優先させるとかで、今回はMBA取得は見送るらしい。あわよくば、一緒の学校に行ければ心強いと思っていた私は、ちょっとだけ残念な気持ちだったけど。人にはその時、その時で人生におけるプライオリティーがあるわけだから。私たちは落ち着いたら、引越し先を教え合おうと約束して別れた。 こうゆう別れのシーンは、日本の会社と違って、あっさりしてるよな、なんて思いながら、私も紙袋をいくつか持って、オフィスを後にした。最初の銀行を辞める時は、送別会だの花束だの、私って惜しまれてる?って勘違いしそうになるぐらい手厚かった。まぁ、辞める人には誰にでも同じようなことをしていたんだけどね。 玲子さんから今回のことは、陵に詳細は知らせるなと釘を刺されていた。それが奨学金をサポートする大前提の条件だったから。 だから引っ越したことも彼は知らない。だって知らせる必要もないのだから。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!