海外赴任のお話を頂きました

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「それなら海外赴任とかどうかしら?」 「どうかしら、とは?」 「今のあなたの会社でアジア圏に支店を拡げる計画があるでしょう?そこのトップ人事は決まったみたいなのだけど、スタッフを何人か日本からも連れて行きたいらしくて、あなたもそれの候補の一人になってるのよ」 「部外者のあなたが、なぜ私の会社の人事のことまでご存じなんでしょう?」 アジア圏を強化すべく、新規展開のことは聞いているけど、それは内部の関係者だから知っていることだ。流川さんはどこから、そんな社外秘情報を入手した?広報がメディア発表はしていたっけ?まだ社内秘とも言われていて、部署内でも限られた人しか知らないはずなのに。 「これでもいろいろコネがあるのよ。ウチも海外展開をしているうちに、人脈も広がってきて。支店を出すかどうかなんて、不動産会社をあったりしているうちに少しずつ漏れてくるものなのよ」 陵がこの伯母さんのこと侮れない人だと言っていたのを思い出していた。伯父さんが今の会社を大きく出来たのは、この伯母さんの自身の貢献と実家の力が大きかったと聞く。社名からしても、R&Gって流川のRと、この私の目の前の女性の旧姓からきているって聞いたことがある。確か、賀川のG。こうゆうタイプを敵に回すのは絶対得策じゃない。 賀川は不動産にも強い建築業界らしい。R&Gは不動産投資を足掛かりに、今ではレストラン、カラオケ、アミューズメントパーク、ショッピングモール内のフードジャンクション経営と事業内容は幅広いはず。 「それにね、陵には年齢的にも美鈴の方が釣り合うと思うのだけど」 今度は1番こちらが気にしていることを強調してくる。 彼女はバックから、陵とその美鈴さんと思われる女性が楽しそうに笑顔を向けている写真を私に差し出してくる。 「二人は大学の同級生でね、美鈴の方がゾッコンだったのよ。付き合ったのも、美鈴からのアプローチからだと聞いているわ」 写真の美鈴さんは、この伯母さんに面差しがやはり少し似ていて、正直言えば、目の前の玲子さんより数段キレイな女性だ。やっぱり、エキゾチックビューティー。 「ウチは子供に恵まれなかったから、陵を養子にっていう話も陵の母親が亡くなった時に出たくらいで。でも流川の、義理の母が反対してね。その話は流れたのだけど」 そうゆう経緯があったから、お祖母ちゃんと流川の長男夫婦はあまり交流がなかったんだろう。お正月とか、まだ流川の家で過ごしていた時でも、私自身、流川の義父の兄や兄嫁に会った記憶はないし、お祖母ちゃんから義父の兄夫婦の話を聞いたこともなかった。 「海外赴任になれば、昇進に合わせて、お給料も上がるんじゃないかしら?海外赴任手当とかもあるって聞いてるわ」 玲子さんは、ウチの会社のトップの方と強いつながりでもあるのかもしれない。玲子さんの話を聞いている内に、なんか、私、お堀を埋められているような気がしてきた。Noと言えないプレッシャー。こんな感じで追い込まれていくのは本意ではないけど、玲子さんの言うことがあまりにも最もで適切なような気もしてくる。まだ私は陵と付き合ってるわけでもないんだから。今なら大丈夫。傷つくことはない。 私が抵抗して、彼女と戦う?結果なんて出てるじゃん、勝ち目はない。 そこまでして、私は陵と付き合いたいと本当に思ってる? この形勢を熟考するに、結論は自ずと出てしまう。実利を取る方がいいに決まっている。 「もし、そうゆうお話を頂けたらなら、前向きに検討します」 陵に飽きられてしまうかもしれない将来・・・・2度も同じ人から要らないって言われるシチュエーションはどうしても避けたかった。 不確実な要素より目の前の昇進と昇給をとろう。そう、私は保身に走ったのだ、実利とともに。 愛だ、恋だの前に、私には目の前の生活を守ることを優先した。 きっと人の気持ちよりもずっと確かなものと思われるものに。 「あと私があなたの元を訪問したことは内密にね。陵に暴走されると、いろいろ面倒だから。あなたも、そういう展開は望んでいないでしょ?だから、陵には別れるとか、いちいち明確にしなくてもいいわ。フェードアウトしてくれれば。そうね、そもそも付き合ってないんだったら、別れるとか関係なかったわね」 そう言い捨てると、玲子さんは伝票を持って席を立ってしまう。 きっかり15分。 全ては玲子さんのペースで話は進んでいたと思う。 同じフィールドに立つことさえ出来なかった私は、きっと陵を諦める方が適切解なんだろう。私の浮ついた気持ちなんか、無かったことにしてしまえばいい。
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