イギリスにいます

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落ち着け、私。 確かに、この賃貸物件を案内された時は二人用だとは言われていたし、後から一人、入居予定だとは聞いていたとは思うけど。 結構、ここの部屋は広かったし、グレードもなかなかだったから、ラッキーとは思ってました、確かに。でもその時点で、既に陵の留学も決まっていたということなら、ちょっと浮かれ過ぎていた私は、ただのおめでたい人じゃないのか。ただただ、陵の手回しが良すぎないか?形勢を逆転させる糸口が見つからない。 「ここで俺と出帆は一緒に暮らしながら、同じ学校に通います。今更イヤだとか言ったら、R&Gからのサポート切られるよ、いいの?」 今度はホントに脅しじゃない? 「それは困るけど。でも、なんで陵と一緒に暮らさなきゃいけないの?次期社長候補の一人なら、もっと凄いとこで暮らしたほうがいいんじゃないの?」 「ここもそこそこだと思うけど、気に入らなかった?社員用の会社借り上げのアパートで、今回たまたま空きが出たらしいんだよね、ここ。どうしてもイヤなら、出帆が出ていく?これから他に、こっちで新規に部屋見つけるの、大変だと思うけどなぁ?」  ここはどこに行くにもアクセスがいい。周辺の家賃の高さは十分リサーチ済です。今更、この部屋以上の所へ引っ越せるとは思えない。 「分かったから。部屋はそれぞれの分あるし、共有スペースは使用方法とか、掃除当番とか双方で決めればいいだけだし」 「俺が担当してもいいしね。多分、MBA取得に手こずるのはどうしたところで出帆の方だろうから」 「どういう意味?」 「まぁ後々分かるとは思うけど」 これは後々と言わず、結構すぐに分かることになってしまった。 陵とはプライベート空間への不可侵を約束し、同じ学校に通い始めることになった。同じ学校だから、別々に行くのもおかしいかと思えてきて、結局一緒に行くことになる。学校へのアクセスはどうしたところで、車の方が便利だから、ついつい陵の運転する車で学校に行き、帰りも当然のように一緒に帰るのが日常になってしまった。これは、ちょっとマズイかなと思えたんだけど、レポート提出が思ったよりもヘビーで、車の送迎は正直ありがたい。陵は提出しなきゃいけないレポートを難なくこなし、好評価を得るのに対し、私は及第点ギリギリか再提出。なんなんだ、この差は・・・・そんなこんなでアパートの共有スペースの掃除の役割分担は手の空いている時間が長い陵が殆どやってくれている。  何なの、この状況? 「俺がいて良かったね、出帆一人だったら、家の中、大変なことになってた」  嫌味なのか、ただ単に確実性のあっただろう現実を言われているのか、最早、反論する気もない。ともかく、今、私は課題と講義についていくので、いっぱいいっぱいなのだ。いつの間にか、陵の家事能力スキルまで上がってるし。 「再提出のレポート、見てあげようか?」  完璧、上から目線じゃないか。何をどう間違えたら、この状況になる?私だって、かつての帰国子女だというのに。なんで交換留学を1年経験しただけの陵にこれだけ差をつけられなきゃいけない? でも今となっては冷静に分かることがある。陵と私が年齢的にも同級生だったりしたら、考えるのも悔しいけど、私の存在なんか侮られるだけだったかもしれない。だって、辛うじて今はある年上としての投げ無しのプライドも、既に粉砕しかけているのだから。私は陵に(かな)うところがない。
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