イギリスにいます

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「出帆、英語部で演劇やったことあったでしょ?歌とかセリフとか、結構、一生懸命、練習してて。相手役をやってたのが、初カレだったよね?」 いきなりの展開に頭の中の昔の引出を引っ張り出した。 「よく覚えてるね?昔のことじゃない?そう言えば、陵が読み合わせの相手しれくれたこともあったね?」 「出帆に発音の仕方を教えてもらって。少しでもいいから、出帆の役に立ちたかった。必要だと思ってもらいたかったんだよね。それがキッカケで英語は得意になりました。」 「マジか?」 全く陵は地頭(じあたま)がいいんだ。私とは出来が違うんだろうな。ちょっと羨ましい、いやかなり羨ましい。 そんなことを思いながら、ふと気付けば、陵を至近距離で見つめてしまっていた。 「そんな風に見つめられると、さすがに照れる」 「いや相変わらずまつ毛が長いなぁとか思って」 自分では、自分の意図しない、『陵を私の方から見つめる』という行動をなんとかフォローしたつもりだったけど、一方の陵は私の一言にちょっと照れたらしい。しかし、今のこの陵の表情はズルいと思う。ちょっとだけ、いつもの自信たっぷりの彼とは違うから。それに、そんな昔の可愛い告白を聞かされれば、愛おしく思えてくる。だから、ついつい、私から陵に唇に触れるだけのキスをしてしまった。これは、ただのレポートを見てくれたという感謝のしるしだ。 「ただのお礼だから。レポートを見てくれた対価というか」 自分のしてしまったことなのに恥ずかしくて。言い訳でしかないのだけど。 「対価ねぇ。足りなくない?もっと貰ってもいいと思うけど」 そう言いながら、自分の頬を差す。これは頬にもキスせよということか。この時点で、再度、その陵の仕草が可愛いと思ってしまった自分は、かなりおめでたい。 反省しろ、自分。 躊躇していたら、陵の方から、私の頬に自分の頬を触れさせて、耳にキスまでしてくる。マズイ。これは反則。ほら、ちょっとでも隙を見せれば、すぐこれだ。私は陵の胸を思いっきり押した。 「すぐいい気になって」 「出帆、耳弱いんだね?ちゃんとこれでもコントロールしてます。俺の理性、すごくない?」 そう言いながら、陵の指が真っ赤になってるだろう私の頬を擦る。 分かってる、陵がその気になれば、簡単なんだろう、私を手に入れることなんて。私の気持ちをちゃんと優先してくれてるだけ。私の揺れてる想いなんて、お見通しだ。 「分かってる」 私がそう言えば、今度は私のオデコに自分のオデコを合わせる。 「なるべく無理はさせないようにするから。出帆の弟枠から少しは成長してることは分かって?待つにしても、さすがに、もう他の男とかは勘弁して。出帆から他の男の名前聞くと、マジにムカつく」 「よく言うよねぇ、自分もモテるくせに」 私が知らないとでも思っているのか。国籍問わず、男女問わず、お誘いをうけていることぐらい既知の事実ですけど。 「少しは妬いてくれるわけ?」 顔を離すと、私の反応を確認してくる。少しどころじゃない、自分が心穏やかじゃないことくらい自覚済みです。 「まぁ多少はね」 私はボソっと呟いた。 「へぇ、これは進歩」 そう言いながら、陵は私を軽く抱きしめる。 ダメじゃん?これだけで、私の気持ちがもっていかれる。 陵の匂いを目一杯吸い込めば、気持ちが踊り始めていた。
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