家庭菜園にっちもさっちも

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****  ベランダにずらりと並んでいるのは、ネット検索を駆使してつくったプランターだ。  プランターとは言ってもプラスチックの鉢を買うのではなくて、牛乳パックを繋げてつくったプランターだ。  そこに右から大根、ニンジン、さつまいもの先端を水に浸して日当たりのいい場所に置き、そこから伸びてきた芽をありがたくいただいている。  本当はにんにくの芽もおいしいらしいけれど、さすがにひとり暮らしでにんにくみたいな匂いの強い野菜を買う勇気も、育てる勇気もなく、やったことはない。  最近はもやしも安くつくれると聞いて、ペットボトルに種を入れて水を加え、それをベッドの下で育てて日が当たらないようにしている。完成したらツナと野菜の芽と一緒に炒めて食べよう。  私がそうウキウキしながら水をやっていると。チャイムが鳴った。 「はい」 「すみませーん、火災報知器の点検です」 「はーい」  そういえば今日は、火災報知器の点検が入ると、アパートの管理会社から連絡が入っていた。私がいそいそと出かけていくと、作業着を着たお兄さんがペコリと頭を下げて、長い機械を使って点検をはじめる。  うちの部屋に設置している火災報知器は、問題なく起動しそうだ。 「最後ですけど、避難出入り口確認でベランダを見てもいいですか?」 「はい、どうぞー」  言ってから私は「しまった」と思う。  後輩からさんざん苦言を呈された「貧乏臭い家庭菜園」を、通りすがりとはいえど、仕事で来たお兄さんに見られるのか。  私があわあわとしていたら、お兄さんは「へー」とだけ言った。 「野菜おいしいですけど、高いですもんね。ちゃんと枯れずに育ててて偉いっすねえ」 「えっ、あ、はい……職場が近所だから、様子見に帰れますから」 「そりゃなにより。でもこれだけ立派なら、もうちょっと野菜育てられませんかね? ホームセンターとかで百円で苗や苗売ってますよ?」 「そ、そうなんですかね……」  私が育てているのは水栽培ばかりで、土をつくってから育てるとなったら、一気に難しくなるような気がする。  私がもじもじしていたら、お兄さんは付け足した。 「しそやルッコラだったら、かなり楽っすよ」 「しそ……! やってみます!」  ルッコラみたいなおしゃれ野菜の使い方はよくわかんないけど、しそだったらむっちゃ使う。チーズとささみと一緒に焼けばそれだけでおいしいし、しそをいっぱい刻んで刺身と醤油だれに漬けておけばおいしい。  しそ最高。でも買うとなったらちょっと困る。  育てられるじゃん。  私はお兄さんにお礼を言ってから、うきうきとホームセンターに出かけていった。
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