act.3 疾風(はやて) 

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   その後、庭先の駐車場まで北を送った。 「今日はありがとな」 「気にするな、にゃん太くんを撫でに来たついでだ」  確かに作業後は、どこからともなく現れたにゃん太と暫く居間のソファーで一体化してたな。夕食を挟んで更に一時間も。相変わらずの猫使い。 「悠里は今日も夜勤か?」 「ああ、頂いた天ぷらは明日温めてやるんだ。天丼とかにしても良いな」  大変だな悠里も。大体三日おきくらいに夜勤をしてる計算だ。その生活パターンに慣れるのも大変だな。 「新人のうちは夜勤が多いのも仕方ないらしい。何年か真面目に勤めて実績を積んだら、外来専門の病院に移りたいと言ってるよ」  それ、美音に聞いたな。北が心配だからゆくゆくは毎日家に帰れる仕事をしたいって。 「まぁ何かあったら呼べ、なんせ俺はお前と美音さんの結婚の責任者らしいから。面倒は見てやるよ」 「おう」  それはしっかりやってくれ。  お前は生まれてくる俺の息子にとって、きっと叔父さんのような存在になるんだからな。 「次の帰省は夏休みか?」 「ああ、何事も無ければな。結構すぐだ」 「だな、暇があったら醸造所にバイトに来いよ。当てにしてる」 「企業体の方に何も無ければな」 「あ、それもあるか。まぁ盆の前後だけでも来てくれれば嬉しい。じゃあ身体に気をつけろよ、何かあったらメールしろ」 「了解、お前もな」  北は帰って行った。    さて、俺も明日帰る準備をして休まないとな、なんせ学校に直行だ。今日からは三階のアトリエ兼用の部屋が俺と美音の部屋だ。  さっき念の為、北に頼んで予備の猫鍋ベッドににゃん太を乗せて寝室に運んで貰った。美音がいないとあそこに落ち着いてくれないかも知れないけど、にゃん太のお気に入りの場所は家のあちこちにある。  美音が戻ったら、にゃん太はきっと美音の傍に来るだろう。  美音の出産予定日は9月の上旬だそうだ。うちの大学は7月末から9月末までが夏休みだから、ちょうどその辺りは帰省しているはず。  生まれる直前には、ちゃんと美音と一緒にいられる予定だ。それが嬉しい。  美音は俺に立ち会い出産を望んでいるから、それも頑張ろうと思う。
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