act.2 薫風(くんぷう)

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 翌朝、楽しみにしていたあかつき桃の様子を見る。もう摘果も終わってひと枝ひとつの袋掛けも済んでいる。このひとつ前の工程である殺菌剤の散布もじいちゃんと真也がしっかりやってくれた。  俺が大学で不在だから結局じいちゃんにばかり頼っていて申し訳ない。けどじいちゃんはとても楽しみだと言ってくれる。初物は絶対じいちゃんばあちゃんに食べて貰わないと。  子供の頃からずっと夢見ていたあかつき桃だ、感慨もひとしお。本当は美音と一緒にやりたかった。  摘果した物はばあちゃんによって果実酒になっているという。風味は足らないらしいが今度飲ませてもらおう。  この夏は色々楽しみだ。  今日の田植えは中崎先輩んちだ。先輩は北海道の畜産大を卒業後は、俺達の農業企業体に参加するために地元に戻って来た。今は実家の農業と酪農をしながら並行で企業体の酪農部門の責任者だ。 「よぉ拓海!結婚おめでとう!子供も出来たんだってな!」  先輩に会っていきなりお祝いを言われた。情報が回るの早い早い、入籍はまだです。 「ありがとうございます、先輩もお元気そうで良かった」 「おぅ!これうちのばあちゃんから拓海にお祝いだ。こっちはうちの親父とお袋から」  え、そんな。でもこういうのは受け取った方がいいってばあちゃんが言ってたな。 「あ、ありがとうございます、とても嬉しいです」 「子供が生まれたら連れてこいよ!うちの連中も楽しみにしてるから」 「はい!」  男の子だからな、俺みたいに土いじりが好きな子供になると良いけど。  その日も中崎先輩宅の田植えを頑張って、毎年の田植えルーティンが開始された。  明日は三浦先輩宅で明後日は氷室先輩宅だ。二人共に会うのが久しぶりだからそっちも楽しみ。    浜通りブルーの空の下、今年も爽やかな風が吹いていた。 9e68d754-a2cc-4552-a9d1-006e2d3136e1  
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