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いつもの醸造所奥の自宅を尋ねると、北はちゃんと帰宅していた。
「悠里は?」
「今日は夜勤だ」
三月に看護師の資格試験に合格した悠里は、そのまま所属の病院に就職したと聞いている。でも相変わらずこの家で兄ちゃんと仲良く暮らしているそうだ。
「晩飯食ってけ、今出来る」
「ああ」
いつもの台所で手際よく何かを煮炊きしている北、相変わらずだ。
俺は茶の間のテーブル前に座ってTVを点けた、勝手知ったるなんとやらだ。
「出雲、茶を頼む」
「分かった」
サイドボードの引き戸からお茶セットを取り出す。ここには俺のコーヒーカップも入っている。
電気ポットから湯を注いでお茶を用意した。
「出来たぞ」
目の前に運ばれて来たのは野菜も大盛りになった生姜焼きの定食のようなものだ、相変わらず美味そう。ちゃんと味噌汁付きだ。
「いただきます」
二人でそれを食べ始めた。
「美味いな」
「いつも通りだ、キャベツは自家製。生姜焼きは簡単だからな」
「今度教えてくれ」
「そうだな、子供が生まれたらお前も色々美音さんを助けないと。まぁ、あの家だとお前の出る幕は無さそうだが」
それだよ、このままだと農作以外何も出来ないまま父親になりそうで不安だ。あの家は過保護集団だからな。
「あのな、五日に入籍するんだ」
「そうか、おめでとう。子供の日なら印象深いな」
「ああ」
味噌汁もしっかり美味い、今日はじゃがいもと玉ねぎの味噌汁だ。
「それでな」
「ああ?」
「お前、保証人な。俺達の婚姻届の」
〝ブーーーッ!!〝
俺の顔にいきなりその味噌汁を吐かれた、汚ねぇな!!
ーーー生姜焼きだけは死守した。
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