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「馬鹿な事言ってんな出雲、そんなんもっとしっかりした立派な人に頼むもんだ」
タオルとティッシュであちこち拭きまくる。被害が俺の顔とシャツのみって言うのが気に入らんな。
シャツは脱いで顔は洗う。北はテーブルも拭いていた。
落ち着いたら、それでも晩飯は続ける。生姜焼きは冷めたら美味くない。
「俺の結婚の責任者だ、俺が決めてナニが悪い」
「だからもっとちゃんとした人に頼めって」
「お前はちゃんとしている、妹も立派に看護師になっただろうが」
「あれは悠里の努力だ」
「お前がいたから悠里は頑張れたんだ、メシおかわりするぞ」
すぐ側の炊飯器からご飯を山盛りにする。ここんちの米は美味い、田代先輩の家から直接買っているからな。
「俺はそういうのに相応しくない、わかってんだろ」
「知らん」
子供の頃に警察の厄介になってるアレならそんなの関係ない。俺だって美音の件で色々やっちまっている。
「お前、弁護士の息子なんだからちっとは考えろよ」
「親父は笑ってたぞ、なんならエルス父さんの意見も聞いてみろ」
「今、おらん」
「後で聞け、とりあえず今日は名前を書いてくれるまで帰らん」
悠里がいなくて良かった、心ゆくまで居座れる。
「バカか」
「バカで結構だ、そうでなきゃお前の友達はつとまらん」
「そっくり返す」
北もおかわりのメシを山盛りにした。
それでも食事を終わってお茶で一服だ、俺も北も煙草は吸わないからいつもメシが美味い。
「出雲、コーヒーが飲みたい。淹れてくれ」
「わかった」
お茶セットの更に奥からコーヒーのセットを取り出す。ちゃんと豆から挽くやつだ、一応北にもコーヒーの淹れ方は教えたけど俺のように美味くないと言う。こいつは短気だから豆の挽き方が適当で、更に蒸らし終わらんうちに次の工程に行くからだと思う。教えてもせっかちなのは直らんから仕方がない。
「ほら」
いい香りが立つカップを北に差し出す。
「うん、美味い」
一口めを口に含んだ北が言う、俺は食器を片付けて綺麗にしたテーブルに持ってきたクリアファイル入の婚姻届を置いた。
「あのな出雲」
「書け」
お前の意見など誰も聞いておらん。
「…ったく大事なもんだろうが、この変わり者が」
それもそっくり返す。
「待ってろ」
北が自分の部屋に行ってガサガサと何かを探している。そしてすぐに戻ってきた、手にしているのは印鑑ケースだ。
俺はクリアファイルから婚姻届を取り出す。
北の目の前に差し出すと、それを丁寧に受け取ってくれた。
そして息を詰めて、婚姻届の証人欄に自分の住所と名前を書きしっかりと押印してくれる。
「実印か?」
「当たり前だ、お前の大事な書類だろう」
「サンキュ」
「軽いな」
そんなもんで良いって。お前は考え過ぎる、俺が良いって言えば良いんだ。
「証人て二人要るんだな、あと一人は?」
「うちの親父」
「ああ、なるほど」
その理由をきっと北は分かっている。
「今日のお礼にお前が結婚する時には俺が証人になってやるからな、忘れんなよ」
それを聞いた北がいきなり大声で笑った、こいつが声を出して笑うのって久々見るな。
「全くお前ってヤツはよ〜」
相当ウケてる、なんでだよ。可能性が全く無いわけじゃ無いじゃん。
「まぁ、そん時は頼むわ」
おう、任せろ。
それといい加減笑うのやめろ、お前笑い過ぎて泣いてんじゃん。
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