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不本意は更に続く。
父ちゃんからの電話を呆然として切った直後、間髪入れずに地元の悪友から電話だ。スマホの表示には『北 龍矢』の文字。
「おう」
珍しいな電話なんて、いつもは要件のみの一言メールなのに。
『おめでとう。これでお前は秋には親父だな』
お前もそれかぁっ!!!
『エルス親父さんが大喜びでいきなり俺の前に現れたぞ、何年ぶりかな』
あ〜そっちからの情報か。それでも一応出雲の父ちゃんの顔を立てて、今のタイミングね。
「そうか」
想像出来てしまうな、エルス父さんのその様子が。きっと相当嬉しかったのに違いない。
「ああ、来週には帰るよ。出雲の親父には言ってある」
『分かった、醸造所にも顔出せよ。じゃあな』
電話が切れた後、俺は力が抜けたようにベッドに転がった。
「子供か」
だめだ、顔がニヤけてくる。もうとんでもなく嬉しくて。
ちょっとの不安とそれを大きく上回る幸福感。こんな気持ちは生まれて初めてかも知れない。
昂輝や俺が出来たと知った時の父ちゃんやエルス父さんも、こんな気持ちだったのかな。
俺はアルじいちゃんもエルス父さんも含めた出雲の父ちゃん達のような親父になるのが夢だ。
俺が稼げるようになって、あの福島の家で家族一族全員で楽しく暮らせる様になるのが理想だ。
「ちょっとだけ早かったか」
理想では子供が生まれる頃には俺は働いている予定だったんだけどな。そこはまた父ちゃん達に負債になっちまうけど。
それにしても、なんで肝心の美音から連絡がないんだ?
ん?母ちゃんからメールが着信してる。いつ来たんだろう?
急いでそれを開く。
『美音がちょっとつわりがひどくて、今朝方入院したからね。心配はいらないけど、目眩もあるからしばらくメールも電話も禁止よ』
それを早く言えって!!全くこの夫婦は肝心な事がいつも後回しだ。
思わずベッドから飛び起きる。
「もしもし母ちゃん!?美音の具合はどうなんだよ!?」
父ちゃんもまずはそこから言ってくれっ!!
突っ込みどころ満載の、俺の子供の受胎告知だった…
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