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「たく兄ちゃんお帰りなさい」
「たーにぃ〜」
「ただいま、真也、ひかり」
同じテーブルに相変わらず可愛い三男と末っ子だ。あれ?
「母ちゃん、凪紗は?」
三女が居ない、こんな時間なのに?部活とかやっていたっけ。
「あのね、新学期から駅前の学習塾に行ってるの。さっきおばあちゃんがお迎えに行ったわ、もうすぐ帰ってくるわよ」
「成績が下がったとか?」
そんな事、美音は言ってなかったけど。真也と凪紗の勉強は美音が見ていたんだが。
「逆よ、成績自体は中学に入ってからかなり上がっているわ。あの子、将来成りたいものがあるからその為に塾に行かせて欲しいって自分から」
「そうなのか」
「でも何に成りたいのかまだ内緒だって言ってるけどね」
俺には服飾デザイナーになりたいっていつも言ってたのにな。夢が変わったのか…まぁそう言うこともあるか。
「塾ってあそこ?俺も大学受験の時に行ったところ」
「そうよ、そこ」
やっぱりあそこか、地元は他に大した塾はないからな。でも凪紗が塾って急に何だろう。
「たく兄ちゃん、今年も歩兄ちゃんちの田植えに行くんだよね!!」
真也の嬉しそうな声に思考が中断された。そういえば今年も真也を呼んでくれていたな。
「ああそうだ、いつものGW最後の日だからな」
「うん!」
相変わらず楽しみにしてるんだ、良かった。
「たーにぃ、みーねぇまだ?」
ん?
「ぴーちゃんいいこしてるの、みーねぇまだかえってこない?ぴーちゃんいいこしてるのに…」
ボロっとひかりの目から涙だ。び〜っと泣き出した。慌ててとなりの真也が涙を拭く。
「あらあら」
母ちゃんがひかりを抱き上げた。
「おか〜ちゃ〜!」
「はいはい、ぴーちゃんはとてもいい子にしてるのにね〜」
よしよしと抱っこしてソファーの方に行く。
「おいでぴーちゃん」
「じぃじ〜」
泣きながらじいちゃんにしがみつくひかり。これが父ちゃんじゃないのは、いつも遊んでくれる時間が長いのがじいちゃんだからだ。
父ちゃんがちょっとつまらなそう、俺達の為にいつも一生懸命働いているのは家族みんなが知っているからね。
「幼稚園から帰ったらいつもおやつを作って待っててくれている美音が居なかったでしょう、もう必死に家中を探していたのよ」
ああ、そうだったんだ。昔、美音が留学から帰ったばかりの頃の凪紗と真也を思い出す。あの頃いつも二人は学校から走って帰ってきたな。
大好きなお姉ちゃんが、いつもそこに居てくれるのが嬉しいのだと。
「ぴーちゃんがいい子にしてたらすぐに帰ってくるのよって教えたからねぇ。毎日この調子なの、病院に連れて行くのも帰りのことを考えると可哀想で出来ないし」
それは確かに可哀想だ。
「もうすぐ退院出来そうだから、それまで仕方ないけどね」
美音もひかりに会いたがっていたもんな。
「真也は大丈夫か?」
一応聞いてみる、真也はあの頃より成長はしてるけど。
「うん、だってみぃ姉ちゃんは丘の上の病院にいるんだもん。アメリカじゃないもん!」
大丈夫だった、病気じゃないのもちゃんと分かっていた。やっぱり成長している。
食事を終えた頃に凪紗とばあちゃんも帰ってきた。
「拓兄、お帰りなさい」
俺を見るなり凪紗が言ってくれる。
「凪紗もお帰り、遅くまで大変だな」
俺は学習塾は高三のちょっとだけしか行ってないけど、やっぱり塾なんて大変だ。
「平気よ若いもん。お母ちゃんお腹空いた〜お父ちゃん、おじいちゃんただいま。真也、宿題やった?あとで見るからね」
若い…そりゃあ俺よりは確かに。どれ、俺も風呂行こう。
「ぴーちゃんもただいま!」
「なーちゃんおかえりなさい〜!」
癒やしアイテムの末っ子を抱き上げた凪紗を横目に席を立つ。食器をシンクまで持って行くと母ちゃんが受け取ってくれる。
「拓兄、去年のナバホのお土産でショルダーのバッグを作ったんだ。時間が無くて今になっちゃったけど、ナバホラグって本当に素敵な織物ね」
「そうか、あれはアレックスが選んでくれたんだ」
「え!本当に!?」
言わなかったっけ?嬉しそうだな凪紗、ちなみにうちの女子の分を全部選んでくれたけどな。ウインドウ・ロックの街で買ったお土産品の方。
その後に俺はジェニファおばさんの高級品をもらって美音にあげたけど。ちゃんと額装してアトリエに飾っている。
「わぁ拓兄、写真撮ってアレックスに送って!」
「ああ、良いな」
ひかりがブンブン振り回されて、楽しそうで何よりだ。
「私、拓兄に相談があったんだ」
「なんだ?」
ひかりを下ろす凪紗だ、ひかりはじいちゃんの所に戻ろうとして途中で父ちゃんにキャッチされた。だが膝に載せられすぐご機嫌だ、父ちゃんもやっと嬉しそう。
「今はいいや、今度ゆっくり話すわ」
そう言って自分の部屋がある二階へ昇って行った。
お願いじゃなくて相談…なんだろう?珍しいな、あいつが。
しっかりと話を聞いてやらなきゃ。
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