act.1 東風(こち)

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 部屋ではもう、にゃん太がくーくー寝ている。気持ち良さそうだな、起こさないでおこう。  明日の準備を軽く済ませて婚姻届を持ったまま布団に横になる。明日は中崎先輩の家の田植えだ。  それが終わったら美音の病院に行って、これを一緒に記入しよう。  美音は、三月の末ぐらいには自分の妊娠を知っていたらしい。母ちゃんとばあちゃんには相談をして父ちゃんたちには口止めして、ちゃんと病院にも行っていた。  でも電話やメールで俺にそれを告げるのが嫌で、GWに直接会えるまで報告は待っていたそうだ。  だけどつわりがひどくなって、普通なら治まるはずのこの時期にとうとう入院になってしまったという。  事実を知った父ちゃんが俺に電話を掛けてきたのが正にその時だ。母ちゃんとばあちゃんだけが妊娠を知っていたので、かなり面白く無かった様子は俺にも想像出来る。  今はもう4ヶ月目だ。 「あのね、男の子なんだよ。今朝、先生に教えてもらったの」  さっき美音が俺に教えてくれた。  どっちでも良いとは思っていたけど性別が分かるのもやはり嬉しい、だから入籍は子供の日が良いと。男の子だから無事に生まれる様にと願掛けだ。  あとは名前…実はずっと前から考えていた名前がある。これからゆっくり調べよう。 「あ、北にメールだ」  明日の夜に行くから家にいるようにと。大事な用事だからなと念も押した。  どんなに嫌がっても署名してもらう。  
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