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しばらく照れていたユーゲンさんだったが、彼の手にしたスマホがピロピロと鳴った。ユーゲンさんはヤバいという顔をして電話に出る。
「あ、母さん? もう直ぐ帰る。今? アパートの下見に来てる。うん、じゃあこれから帰るから」
現在の母親からの電話なのだろうが、“アパートの下見”とは一体なんだ?
ユーゲンさんは通話を切ると、俺の部屋の隣の空部屋を指さして言った。
「オレ、4月からまた誠智大学の学生だから。そこから通うんでよろしくな、お隣さん♡」
「……え、マジっスか。え。」
「なんだよ、もっと驚けよ~。反応薄いのって万死に値するんだけどー」
「そうは言われても今日は色んなことが起きるんで驚きが過ぎるっていうか……隣じゃなくてまた一緒に暮らしたかったっていうか、」
まぁでもそれも難しいよなぁ。隣の部屋というだけで満足しないと。世間の目を気をつけながら俺の部屋へ連れ込めばいいんだし。
「……お、お前っ、」
ふと見るとユーゲンさんがぶるぶると震えている。何だ?
「アラフォーのくせにいじけんなよ! かわいいんだよ! オレがお前のそーいうのに弱いって分かっててやってるな! あーくそ、さっきはおっさんとか言ったけど、めちゃくちゃかっこいいと思ってる!!」
だめ押しにコテンと首を傾げると、ユーゲンさんは「ぐっ!」と呻き胸を押さえて膝から崩れ落ちた。なにこれおもろい。
「ユーゲンさん、相変わらず雑魚な所は変わってないですね。……あれ?」
俺はさっきからユーゲンさんのことをユーゲンさんと呼んでいるが、今のユーゲンさんの名前はユーゲンさんなのだろうか? その可能性は低そうだ。
「ユーゲンさん、今の名前はなんていうんですか?」
するとユーゲンさんは俺を見上げてヒラヒラと手を振る。
「オレのことは変わらず“ユーゲンさん”でいいよ。色々とややこしいし」
「知らなかった方がややこしいしこともあるんで」
というか、色々とややこしいって何だ?
「あー、ならまぁ名乗るけど。オレの今の名前は加狭 航希っていうんだよ」
なるほど、それはややこしいし。
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