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大学に着いて講義室に入ると、席に座っているシジマがこちらに気がついて安心したように笑った。そんなシジマの隣に座ってからまずはこう言う。
「ずっと連絡しなくてごめん。色々と気を使ってくれてありがとう、嬉しかった」
するとシジマはゆるやかに首を横にふる。
「大丈夫、僕は何も気にしていないから。それより君の方が心配だよ。……といっても僕に出来ることなんて少ないんだけどね」
そう言ってノートのコピーや課題についてまとめたメモを差し出してくれるシジマの優しさに胸が打たれ涙が溢れそうになる。
乱暴に目元を擦っていると、友人は遠慮がちに訊ねてきた。
「……少しは心の整理がついたかい?」
今度は俺が首を振る番だ。
「まだ全然。何もかもが急過ぎて」
そうぼやくとシジマは“う~ん”と低く唸る。
「……僕個人としての見解だけど、いいかな?」
いつかと同じ言い回しのそれに俺は頷く。シジマはぼんやりとしていて頭はあまりよくないが、含蓄のあるいいことを言うので聞いておいて損はないだろう。
「お墓参りに行ってみたらどうかな? お墓を見たら心の整理がつき易いと思うんだ」
「墓参り?」
思わず繰り返してしまうほどそれは衝撃的な提案だった。ユーゲンさんは幽霊だったが、俺には生きている人間と少しも変わらず見えていたので墓なんて考えつきもしなかった。
つまりは“墓を見たらさすがに諦めがつくだろう”という意味なのだろう。だがそれとは別にユーゲンさんの墓には参ってみたいと思った。墓はこの世で唯一残っているあの人の痕跡だ。だけど……。
「……墓の場所が分からない」
俺は何も知らない。ユーゲンさんについて何も知らないのだ。
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