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ユーゲンさんは俺の背中に腕を回すと、まるで子どもをあやすよう背中をポンポンとしてきた。
「バカだなぁ~。お前って本当にどうしようもないバカだ。いつまでも待ってやがってさ。……でも、嬉しい。オレもコーキを愛してる」
「ユーゲンさんだけにはバカとか言われたくないんですが?」
「んだよそれ、まるでオレがバカみたいじゃん! つか雰囲気ぶち壊しだな!! ……ぶえっくし!」
ユーゲンさんがおっさんみたいな豪快なくしゃみを3度程繰り返すので、手放さないようにと思っていたが直ぐに遠ざける。
「寒空の下ずっと待ってるから風邪ひいたんスか? うわぁ、うつさないでほしい。大丈夫ですか?」
「“うつさないでほしい”と“大丈夫ですか?”を同じ口、同じタイミングで言えるお前の神経を疑うわ。……あー、お前が部屋に入れてくれねーならとりま今日は帰るわ。もういい時間だし、父さんと母さんが心配してるかも」
父さんと母さん。それを聞いて思い出すのはユーゲンさんの生前の両親のことだ。赤ん坊だったユーゲンさんを残して事故で亡くなった人達。ユーゲンさんは両親の愛を渇望していた。
「……新しいご両親はいい人達ですか?」
なんて聞けばいいのか分からず無難なことを言えば、ユーゲンさんは笑って大きく頷く。
「ああ、超いい人達で大好きだ!!」
ホッとした。こうして心の底から笑えているなら安心だ。
俺の安堵の顔を見て色々と察したのか、ユーゲンさんは穏やかな顔で続ける。
「オレさ、成仏して所謂“あの世”ってヤツで前の両親に会えたんだ。オレのことずっと見てたってさ。そんで生まれ変わる時は“行ってらっしゃい、幸せにね”って言ってくれた。だからオレ、幸せになる。オレの幸せにはコーキが不可欠だからな!」
なるほど、ユーゲンさんのご両親だけあっていい人そうだ。それにちゃんと息子を愛している。
「俺の幸せにもユーゲンさんが必要ですよ」
するとユーゲンさんははにかんでうつむいた。
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