10話「ワケあり物件で恋をしよう」

9/13
前へ
/149ページ
次へ
 ユーゲンさんは俺の背中に腕を回すと、まるで子どもをあやすよう背中をポンポンとしてきた。 「バカだなぁ~。お前って本当にどうしようもないバカだ。いつまでも待ってやがってさ。……でも、嬉しい。オレもコーキを愛してる」 「ユーゲンさんだけにはバカとか言われたくないんですが?」 「んだよそれ、まるでオレがバカみたいじゃん! つか雰囲気ぶち壊しだな!! ……ぶえっくし!」  ユーゲンさんがおっさんみたいな豪快なくしゃみを3度程繰り返すので、手放さないようにと思っていたが直ぐに遠ざける。 「寒空の下ずっと待ってるから風邪ひいたんスか? うわぁ、うつさないでほしい。大丈夫ですか?」 「“うつさないでほしい”と“大丈夫ですか?”を同じ口、同じタイミングで言えるお前の神経を疑うわ。……あー、お前が部屋に入れてくれねーならとりま今日は帰るわ。もういい時間だし、が心配してるかも」  父さんと母さん。それを聞いて思い出すのはユーゲンさんの生前の両親のことだ。赤ん坊だったユーゲンさんを残して事故で亡くなった人達。ユーゲンさんは両親の愛を渇望していた。 「……新しいご両親はいい人達ですか?」  なんて聞けばいいのか分からず無難なことを言えば、ユーゲンさんは笑って大きく頷く。 「ああ、超いい人達で大好きだ!!」  ホッとした。こうして心の底から笑えているなら安心だ。  俺の安堵の顔を見て色々と察したのか、ユーゲンさんは穏やかな顔で続ける。 「オレさ、成仏して所謂“あの世”ってヤツでに会えたんだ。オレのことずっと見てたってさ。そんで生まれ変わる時は“行ってらっしゃい、幸せにね”って言ってくれた。だからオレ、幸せになる。オレの幸せにはコーキが不可欠だからな!」  なるほど、ユーゲンさんのご両親だけあっていい人そうだ。それにちゃんと息子を愛している。 「俺の幸せにもユーゲンさんが必要ですよ」  するとユーゲンさんははにかんでうつむいた。
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加