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それからユーゲンさんは帰って行った。俺は彼を乗せた電車が見えなくなるまでホームに佇んでいた。
駅までのほんの数分の道中、ユーゲンさんはしみじみと言った。
「オレ、成仏する時に願ったんだ。またいつか会えたら、その時もまたお前と愛し合いたいなって。それが叶っちまった」
それに対して俺は、こう答えた。
「俺はアンタがいなくなった時、アンタのことをもっと愛したらよかった、アンタにもっと愛されたかったと思いました。これも叶ったっスね」
互い顔を見合わせて笑い合う。
「なんだよ、オレ達同じようなこと思ってたんだな!」
「そうですね。恋人ってのは似るんですかね」
俺達以外誰もいない夜道、どちらともなく手を繋ぐ。冷たいが、温かい。ユーゲンさんが本当にここにいるのだと思い知らされ涙が出そうになる。
「ユーゲンさん、早く卒業してこっちに越して来て下さいね。最悪もう卒業しないでこっちに来たらいいですよ」
「卒業はさせて?! ……てか、大人しく待ってろよ。さっき我慢しろとか言ったヤツのセリフとは到底思えないわ。ほんっと仕方ないヤツだなぁ」
ケラケラと笑うユーゲンさんの目も、涙で揺れている様に見えた。
ひとり、部屋に戻る。大学進学を機に住むことにしたアパートのこの部屋は所謂“ワケあり物件”だ。
そこでオレは幽霊のユーゲンさんに出会って、恋をして、愛し合って、別れた。でもまたここから俺達は始めるんだ。
“ワケあり物件”ってやつもそう悪くはないだろう?
【終】
次頁、オマケとあとがきあり→
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