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金曜日の放課後、七海は貸してもらった歌那子のコートとママが用意してくれた菓子折りの紙袋を抱えて電車に乗っていた。
降車扉をはさんだ向かいにはつゆきが腕を組んで壁によりかかっている。
今日も閑古鳥でバイトだというので、やや強引に同じ電車に乗ってきたのだ。
「文化祭楽しみだね、だれか呼んだ?」
ねむそうに窓の外を眺めているつゆきに七海は声を掛けた。
川面をぎらぎらと反射して髪と顔とを赤く染め上げている夕映えから眩しそうに眼をそらし、つゆきは七海に視線を移した。
「だれも」
「ふうん」
つゆきと時々言葉を交わすようになって、七海はすぐに気が付いた。
無口で無愛想な印象を裏切って、つゆきは話しかけたらかならず返答してくれるということに。
多分、クラスの誰も気付いてないけど、意外なほど律儀に。
「歌那子さんは呼ばないの?」
「仕事」
「そっか、文化祭は平日だもんね」
降りる駅が近づいて、つゆきはゆっくりと伸びをした。
七海のことは訊いてくれないから会話がイマイチ盛り上がらないのが難といえば難だけど、つゆきは誰とでもそんな感じの関わり方らしかった。
「もうちょっと愛想がよければ、ルックスは悪くないのにね」
というのは美穂の感想で、七海もまったく同感だった。
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