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 七海達は通りでタクシーを拾った。 「結構、大きな事故だったんじゃないかな」  行き先を告げ、シートに背中を預けてから修平がぽつりと言った。 「うん」  路面に輝いていたミラーの破片、針金細工のように折れ曲がった自転車、なぎ倒されたガードレール、水を流した跡。  自分と繋がりのある人が巻き込まれた事など知らずに眺めていた事故現場の横を通って、タクシーは市立病院へむかった。  窓の外を黄昏れの街が通り過ぎてゆく。  車内にはおさえたボリュームではあったが、にぎやかなAMラジオが流れていた。  ちょっと前に流行ったバンドの曲が流れた後、ローカルニュースに交通情報。  高速のジャンクションで自然渋滞。  それから天気予報。  ローカル局なのに律儀に北海道から始まった天気予報がこの町の天気を告げる前にタクシーは止まった。 「ありがとうございました」    タクシーに料金を払って降り、なんとなく病院の建物を見上げた。  のっぺりとそびえる病院の窓はどれも灯りが点って明るく、夕食前のひととき、暮れなずむ街を見渡して過ごす入院患者たちの姿が小さく見えた。  正面玄関前はロータリーになっていて、発車待ちのバスが並んでエンジン音を響かせている。 「こっちだ」  修平が先に立って救急外来の入り口に急いだ。  時間外だというのに、待合室には意外とたくさんの患者さんがいて診察を待っていた。  カウンターで用向きを伝えると笑顔の優しいナースが処置室の場所を教えてくれた。  長くて広い廊下、壁際に並んだ空のストレッチャー、角を曲がると次第に待合室のざわめきが遠のいて、七海達はもっとちがう種類の慌ただしさの漂う一角に到着した。 「つゆき?」    処置室の前廊下につゆきがいた。  ゆるく腕を組んで壁にもたれ、処置が終わるのを待っている。 「閑古鳥を訪ねたら大将が事故に遭ったってきいて…大丈夫なの?」 「俺たち偶然事故現場を通りかかったんだ、ガラスは散乱してるわ、自転車は折れ曲がってるわ、かなり酷かったぜ」  非常事態で興奮したのはわかるけど、修平のセリフにはデリカシーがなさすぎた。  つゆきは壁から身を起こし、ゆっくりと七海達の方へ向き直った。  なまじ整った造りなだけに睨むと冷ややかな凄みがあって、七海は思わす後ずさりしながら、修平の脇腹を肘でつついた。 「ちょっと、修平ってば」 「あ、いや、だからその…ごめん」  頭をかいて小さくなってる修平を無視して、つゆきは七海に訊いてきた。 「店に用?」 「あ、うん。文化祭の事でちょっと相談したいことがあったの。こんな事になってるとは思わなくて、取り込み中にごめんなさい」  ビックリして勢いで病院まで押しかけてきてしまったけれど、よく考えたら身内でもないのに迷惑だったかも。  急に落ち着かなくなって、七海は謝った。 「…いや」  つゆきは少しだけ表情をやわらげて首を横に振った。  そこへ、 「つゆきくん」  歌那子がまっすぐな廊下を駆けてきた。
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