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 月曜の朝は晴れていても憂鬱だ。  県立北城高校2年、大館七海は、改札口から吐き出される雑踏に流されるように開店前の商店街を歩きながら、あくびをかみ殺した。  よっぽどサボりたかったけど、今日の三時限目は数学の小テストだ。  かんばしくなかった中間試験の成績は、授業中に行われるテストと提出物でちまちまと点数を稼いでフォローするしかない。  昨夜必死で暗記したあの公式たちのどれかが人生で役に立ってくれる瞬間がいつか来るとはとても思えないが、少なくとも今日の午前中の間だけはぜひとも脳内に留まっていてもらわなくては。  七海はぶつぶつと口の中で因数分解の公式を繰り返しながら、点滅しはじめた横断歩道を小走りで渡った。 「おはよっ! 七海」   同じ電車だったのか、うしろから同じクラスの神崎 茜が追いついてきた。 「おはよ~う」  「ありゃ、テンション低いね、七海」 「寝不足。茜は元気だね、朝っぱらから」 「まあね」 「さては充実した週末をすごしたな」 「さあね」  すっとぼける茜は、近頃できた他校の彼氏とラブラブらしく、頼まなくたっていくらでもノロケを聞かせてくれる。  通学途中にあるコンビニにお菓子とジュースを買いに寄ることにして、七海はさっそく水を向けた。 「さあね、ってなんなのよ」  にんまりしている茜の脇腹をヒジでウリウリつつくと、くすぐったがりの茜は体をくねらせて逃げた。 「や~め~て~」 「ちょっと聞かせてよ」   追いかけようとした七海は通路を通り抜けようとしていた男子生徒の胸に結構な勢いでぶつかってしまった。 「あ、ゴメンなさい」  あわてて謝る七海を、高い位置から見下ろしているのは同じクラスの鷺宮つゆきだった。  重めの前髪の下で眠たげな瞳がジロリと動いて七海を見たあと、 「ごめんね、気が付かな…」  もう一度謝ろうとしていた七海から、露骨に視線を逸らして、つゆきは無言で行ってしまった。 「なにあれ、あやまってるのに感じワル」  正直、ムッとして七海は呟いた。 「ああ、鷺宮くんか、ちょっと変わってるよね」  精算を終えて店を出て行くつゆきを見ながら茜が言った。 「茜、知ってるの?」 「別に詳しいわけじゃないけど、一年の時も同じクラスだったんだよね」  と茜は言った。 「家庭の事情とかなんとかでほとんど来てなかったから、印象も薄いんだけどさ」 「ふうん」  七海はおざなりに頷いた。  同じクラスになって半年以上がたつのに、鷺宮つゆきに関して七海も茜も「無口で寝てばかりいる変わった人」以上のデータは持ち合わせていない、ということが判明したが、だからどうということもなく「無視することないじゃん」としつこくボヤきながら 七海はポテチとビスコとチョコポッキーをガツガツとレジカゴに放り込んだ。
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