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「本当にラブラブなんだ、茜と彼」  コンビニから教室まで尽きることのない茜のノロケ話に付き合って、七海はさすがにそう言わずにはいられなかった。 「まあ、おかげさまで」  いまさらながら、頬を赤くして茜。 「言ってくれますね~」 「七海も彼氏つくればいいのに、人生が一気にバラ色になるよ」  乙女チックに胸の前で手を握り合わせて天を仰ぐ茜に、七海はあははと笑った。 「七海、モテるのに」 「モテてないよ」 「だってこないだもナンパされてたし」 「ナンパはモテるとは言わないの」  否定する七海に 「量より質ですか」 と妙に真剣な顔で茜は言ったのだった。 「そういうわけじゃないけど」 「じゃ、中川くんが本命?」 「修平? ん~それはないな」  カバンを机に置きながら七海が言った瞬間、背後から声が掛かった。 「七海、今、オレのこと話してなかった?」  振り返るまでもなく修平だった。  エナメルバッグを肩に担いで、日焼けした顔をタオルで無造作に拭いながらニコニコと寄ってくる。 「おはよ、朝練?」 「ん、試合近いからな」 「そっか、朝からお疲れさま」 「七海、応援来いよ。七海が来てくれたらおれハットトリック狙っちゃうぜ」  修平は夏に三年生が引退したサッカー部の主将をつとめている。  プレー中は人が変わったみたいにカッコイイよ、と試合を見に行ったクラスメイトが教えてくれたが七海は一度も応援に行ったことがなかった。  修平が何度説明してくれても、ポジションの名前どころかオフサイドの定義さえも覚えられないのだ。 「ハットトリックってなんだっけ?」  修平はとほほ~とした顔になった。  ポリポリと鼻の頭を掻いて考えていたが、 「じゃあさ、次の練習休みの日カラオケ行こうぜ、駅前のレインボー、二時間無料券あるんだ」 「いいよ、いつ休みなの?」  七海が答えると、 「ホントか? 付き合ってくれんのか?」  修平はこころなしか赤い顔をして念を押した。 「うん、カラオケでしょ、茜も一緒に行こうよ」 「あたしはいいよ、二人で行ってきなよ」  七海が誘うと、そばで聞いていた茜は妙にあわてて首を振った。 「じゃ、決定だな。顧問に休み聞いとくから」  修平は嬉しそうにそう言って、ウキウキした足取りで仲間の方へ戻って行った。 「あ~あ、嬉しそうだね、中川くん。付き合っちゃえばいいのに、七海」 「修平は友達だもん」  修平の好意は嬉しかったが、冗談を言って笑い合える今ぐらいの距離感が心地よかった。  たまに一緒に帰ったり、休みの日に会ったりしても修平とはそれだけだ。  暗い道を二人で歩いていても、手さえ握ってこない修平は楽しくて優しい大切な友達。  仲間と冗談をとばしあってゲラゲラ笑っている修平を見詰めながら七海は安心しきっていた。
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