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 放課後、七海は茜に頼まれて茜の彼氏の誕生日プレゼント選びに付き合った。   夏生まれのせいか超のつく寒がりだという彼氏のために、茜はダウンジャケットと手袋を選び、大きな紙袋を抱えてウキウキと帰って行った。  七海は毎月買ってる雑誌を買ってから帰るつもりで茜と別れ、10月も末の街を本屋に向かって歩いていた。  市営バスのロータリーを通りかかった時、話をしていた三人連れの若い男たちがふと会話をやめて七海を見た。 「一緒にカラオケ行かない?」  目が合ったとたん、なれなれしい口調と媚びた笑顔で近寄ってくる。  さりげなく他の二人が両脇を固めてきて七海は思わず鞄を胸に抱えた。 「いえ、いいです」 「どこの学校? 制服可愛いね」  左側から冗談を装って男が腕に触れてきた。  ロコツにイヤな表情を見せれば相手にキレる口実を与えてしまう。  七海は曖昧に視線をそらして足を速めた。 「待ってよ、なんでそんなに急いでんの?」  親しげに背後から肩をつかんだ指には、力はこもっていないのに振り払えない粘着性があって、七海は思わず息をのんだ。  いやだ。  振り返ると間近に男のギラついた眼があった。  笑っているけどひややかで、媚びていながら威圧的な視線。 「はなして」 「送るよ、このへん物騒だし。俺たち車なんだ」  男がアゴをしゃくった先にはスモークガラスのワンボックスカーが停まっていた。  外からは容易に中の様子が見えない。何が起こっていてもわからない。  これってニュースでよく聞く拉致監禁!?  連れ去り、暴行、監禁、行方不明…  頭の中を怒濤のように陰惨なイメージが駆けめぐり、一瞬で血が冷えた。 「いえ、いいです」 「本当に送るだけだから」 「家どの辺なの?」 「彼氏いるの?」  にたにたと意味もなく笑いながらたたみかけるように質問してくる。  表面上はにこやかでフレンドリーな態度なのに、七海の肩を押す手には有無を言わさぬ圧力がある。  両サイドに男が立ち、周囲からの視線を遮っている。  慣れてる。  罠を張ることにも、獲物を追いつめることにも。  口の中がからからに渇いて、七海はただ首を横に振るしかできなかった。 「遠慮しないでいいからさ」  一人が車に駆け寄りスライドドアを開けると、暗い車内から洋楽とあまいフレグランスの粘っこい香りが流れてきた。 「いや、放して」 「まあいいじゃん、いいじゃん」  とっさに身を引こうとしたあたしを、男は強引というよりすでに無理矢理な力で車に押し込もうとした。    もうダメだ。   そう思った瞬間、 「その娘、嫌がってるんじゃない?」  声が降ってきた。 「あ?」  虚をつかれて男の一人が間抜けな声を出した。  振り返ると、会社帰りらしい淡いブルーのスーツを着た女の人が立っていた。 「なんなんだよ、アンタ」 「嫌なんじゃないの? あなた」  小首を傾げるようにして聞いてくる。  カッチリと後ろで結んだ髪と化粧気のない顔、くわえてずり落ちそうに大きな丸いメガネを掛けているせいで彼女は学生のように若く、というよりおさなく見えた。 「あ、は、はい」  あわてて何度も頷く七海に、やっぱりというようにふんわり微笑んで 「じゃあ帰りましょ」 と手を差し伸べてくる。 「余計なコトすんじゃねえ」  七海より一瞬はやく反応した男の一人がその手を乱暴にはねのけようとした瞬間、 「痛え」  彼女をかばうように割り込んだ男が、いきなりそいつの手首をつかんでひねり上げた。 「いででで」  男が悲鳴を上げる。 「歌那子、危ない」  見慣れたグレーのブレザーに紺色と赤のタイ。   うちの制服だ。 「なんだぁ、てめえ」 「きゃっ」 「あんたも下がってろ」 思わず声を上げた七海の顔をジロリと一瞥したのは、さっきまで教室で一緒だった鷺宮つゆきだった。
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