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 翌日、七海はいつもより一時間早い電車に乗った。  昨夜の興奮が残っていたのか、妙にはやく目が覚めてしまいなんど寝返りを打っても眠れなかったので思い切って早めに家を出て来たのだ。  駅まで迎えにきてくれたママは、自分が悪いんじゃないと何度説明してもプリプリ怒って聞いてくれなかった。  でも気詰まりな車から降りた時、ママが涙ぐみながら言った。 「女の子なんだからもっと気を付けてちょうだい」  ママがすごく心配してくれていたことに、愚かにも七海はその時まで気付かなかったのだ。 「心配かけてごめんなさい」  素直に言えたらほっとして、七海も泣いてしまった。  家に入ると二人の兄たちから、ぼんやり考え事でもして歩いてたんだろう、とかなんとかからかわれたけどそれも気にはならなかった。  いつもならバイトで疲れてとっくに寝ている時間なのに、なんとなくリビングでテレビを見ながら七海の帰りを待っていてくれたのが嬉しかったから。  ふだんよりほんのすこし早く電車を降りただけなのに、見慣れた商店街は静まりかえり行き過ぎる人の層も違っていて面白い。  朝日を浴びて七海は深呼吸した。  集団登校の小学生に追い越されながらのんびりと学校までの道を歩くのは気持ちよかった。 「あれ? 七海、今日は早いね」  校門をくぐって昇降口へ入りかけた七海を呼び止めたのは、同じクラスの玲子だった。  黒いジャージの上下を着て体育館へ続く渡り廊下から手を振っている。 「うん、なんとなく。玲子は朝練?」  玲子はたしかバレー部だ。 「アップが終わったとこ。なんだ、修平の練習見に来たのかと思ったよ」  玲子に言われて七海はあっと思った。  そういえばこの時間、グランドでは野球部とサッカー部が朝練の真っ最中のはずだ。  どうせヒマだしこのままグランドへ回って練習中の修平を見物するのも悪くない。 「そっか、そうしようかな」  七海は玲子と別れ、グランドへまわった。  広々とした朝のグランドでは陸上部と野球部、それからサッカー部が練習している。  今日のメニューなのか、ダッシュや柔軟体操をしている集団から離れた場所でミニゲームが行われていた。  離れていても修平はすぐにわかった。  黄緑のビブスをつけたチームの中でひときわ激しく果敢にボールを奪いにいくシルエット。  倒されても突き飛ばされても、土を払って立ち上がる。  冷静にフィールドを見渡して仲間に指示を出しながら、ふたたび混戦の中へ飛び込んでゆく。  吐く息が白い。  妥協のない挑み続ける瞳。  長いパスが通り、それを味方がゴールにたたき込んだ。  湧き上がる仲間に囲まれて、修平は笑っていなかった。  自分のプレーに納得できない部分があったのだろう、ゴールをじっと見詰めるその表情は厳しかった。  ピーッ!  マネージャーの女子生徒が腕時計を見ながら笛を吹く。  修平は仲間に背中を叩かれながらこちらへ向かって走ってきた。  ベンチで待っていたマネージャーがタオルを渡し、修平はそれを頭からかぶってガシガシと汗を拭った。  ふと顔を上げ、見詰めている七海に気づくと驚いた表情で動きを止めた。  それから笑顔になる。  子犬みたいに無邪気であけっぴろげなその表情は七海が知ってるいつもの修平のものだ。  七海はちょっとホッとして手を振った。
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