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Tea Party(11/15 '22 改
火鳥会の事務所に配達員が来た。組員が応対し、荷物を受け取る。
「この荷物、送り主がミドリ製薬になってるぞ」
「ミドリ製薬? 製薬会社のか? なんだってうちに届くんだ? まさか、そっちのクスリもこしらえてたのか?」
「そっちのクスリだったら、足がつきやすい宅配便なんか使うか? オマケにバカ正直に送り主まで書いてあるし」
組員たちは、ああでもないこうでもないと言い合う。
ひとしきり言い合ったあとで、「この荷物は怪しいので開けてみる」ことで満場一致した。
封を切り、発泡スチロールの梱包を解く。
「うわぁぁぁ!!」
梱包されたものを見た組員は、絶叫した。
「どうした? お前ら」
後から来たヨウヘイは怪訝そうに尋ねる。
「カシラ、この荷物、人の頭が入ってますぜ!」
***
「――こちらにご連絡いただき、ありがとう存じますわ」
ウラトは、ゲンジロウからかかってきた電話を切ると、そばにいるレイハの方を向く。
「レイハ、コフタ=マサキが殺された」
ウラトは、電話の内容を伝える。人が死んだというのに、淡々としている。
「コフタさんにはどうお伝えいたしましょうか?」
「事実を伝えろ。下手に隠して立てすると、かえって面倒なことになる。
それから、エリにも話を通してくれ。こういうことは、エリの方が得意だからな」
「承知しました」
レイハは一礼し、執務室を後にした。
「お父さんが……?」
カナの元に向かったレイハは、先程のことを伝える。
それを聞いたカナは、ただ、呆然としていた。
その場は暫く沈黙に包まれる。
ふと、カナの頬に、何かが伝ってきた。手でそれを拭う。
拭った手を見てみると、そこには血が付いていた。
「なんで私の目から血が出ているの?」
目からの血は、留まることを知らず、流れ続けていた。
レイハは執務室に戻ると、カナの身に起こったことを報告した。
それを聞いたあと、ウラトは、ジェイとアサトを呼び出す。
「カナの目から、血が出たそうだ。ジェイ、思い当たることはないか?」
「カナは、血液以外のものも食べられるようになった。陽光にも当たれるようになった。体質の変化が進んだということだろう」
ウラトの質問に対し、ジェイはこう答えた。
「体質の変化、ですか。変化といえば、目の色が、ウラト様とジェイさんのように、赤目になっていたような……」
レイハは、カナの容貌について、思い返そうとする。
「そういえば、ジェイ、お前はカナを吸血し、血を与えたのだったな。ヴァンパイアの血には、相手を支配下に置く力がある。カナを下僕にするつもりだったのか?」
「支配下か。確かに、ヴァンパイアの血にはそのような効果がある。純然たるヴァンパイアではないとはいえ、私の血にもあるのかもしれない。
あと、別にカナを支配下に置くつもりはないぞ。でも、言われてみれば、なんでそんな事をしたのだろうか」
「「なんでそんな事をしたのだろうか」って……人の人生がかかってるんだぞ。その言い草はあまりにも無責任だろうが」
アサトはジェイの言い分に対し、怒りを通り越して呆れを覚えた。
「まぁよい。結果、カナは血以外も食べられるようになった。日の下にも出られるようになった。結果オーライというやつだ」
アサトはウラトの方を向き直る。
「失礼を承知ください、ウラト様。ジェイに甘くないですか……?」
「そうか? 余は、誰であっても優しく接しているつもりなんだが?」
ウラトは臆面もなく返した。
***
レイハは、ウラトの命を受け、カナをエリの元に案内した。
エリの世話役になっているマキに事情を説明したあと、レイハは部屋を後にする。そのあと、入れ替わるように、カナは部屋に入った。
ドアを開けた時、部屋一帯に、光が降り注いでいる。カナは、あまりの眩しさに目を細めた。
というのも、伊原邸は日の光が入らない作りになっており、昼間でも薄暗いからである。
「あなたがコフタ=カナさんですね? 私はイハラ=エリ。ウラトは、私の姉様です」
部屋に入ってきたカナに対し、エリは恭しく自己紹介をした。
「初めてなので、恐縮してしまうのでしょうけど、どうぞ、そこのソファーに腰掛けてくださいな」
エリは穏やかに微笑む。
「は、ハイ!」
カナはぎこちなさが抜けない返事をした。
言われるがままに、エリの前にあるソファーに座る。ソファーに腰をかけた状態で、部屋を見回した。
部屋には、所々に、花や絵が飾られている。
また、高価であろうアンティーク家具が並べてあった。
床の上の敷物には、繊細な絵が描かれている。 置いてあるもの全てが、格調高い佇まいで、まさに邸宅、という趣のある部屋であった。
カナはいわゆる中流家庭の育ちだ。今のご時世を鑑みれば、比較的、恵まれた環境だろう。
だが、高級家具の類には縁がなかったためか、どうにも落ち着かない。
それに、カナにはもうひとつ、気になっていることがあった。
「ええと、変なこと言ってすみません。ここは、昼間でもなんか薄暗いのに、この部屋は明るいような気がします」
「『この部屋は明るい』ですか……それはですね、姉様がこの部屋だけ、日が入るように作られたからです。
なので姉様は、日中はこの部屋に来ることはできません。もっとも、日中はお休みになっていることが殆どですが……」
日の光は人に活力を与えるものだが、ヴァンパイアにとっては命を奪うものだ。それはウラトでも例外ではない。
だから、日中は殆ど活動していないとしても、用心には用心を重ね、日の光が入らないような作りにしたのであろう。
しかし、エリはそうではない。彼女には日の光が必要なのだ。なので、あえて日の光が入るような作りにしたのだろう。
この明るい部屋は、ウラトのエリに対する、深い愛情そのものだ。カナはそう感じ入った。
「なにか、お飲み物でもいただきますか? 紅茶ならすぐにお出しできますが」
エリからお茶にしませんかとの誘いを受けた。カナは再度、ドギマギしてしまう。
「紅茶でお願いしますっ」
「ストレートにしますか?それともミルクを入れますか?」
「えーと、じゃあ、ストレートにします」
「マキさん。お湯と茶器をお願いします。それから、お茶菓子も頼みます。私は葉っぱを取ってきますね」
エリは立ち上がり、紅茶の葉を取りに行くために棚の方へ向かった。同時にマキもエリに頼まれた物を卓に用意する。
「お待たせしました」
エリは卓につくと、用意された茶器に、茶葉を入れ、お湯を注ぐ。
カナはその様子を眺めていた。ふと、母が紅茶を入れた時のことを思い出した。
――このカップなんだけど、割らないように気をつけなさいよ。〇〇って言うんだけど、これ、高いんだからね――。
なんという会社のものだったかは、失念した。でも、母は、そのカップを大事にしていた、というのはわかる。
そんな事を考えていたら、また目から血の涙が出てきた。
「カナさん、大丈夫ですか?」
「心配をおかけしてごめんなさい。私は……」
カナは涙を堪えようとするも、意思に反してとめどもなく出てくる。
「少々お待ちください」
エリは、立ち上がってタンスの方に向かう。白のハンカチを取り出すと、カナに差し出した。
「ありがとうございます。でも、ハンカチが……」
「気にしないでください。洗えば落ちますから。
……我慢しないでください。カナさんはとても辛い目にあったんです。私はお話を伺うことしかできませんが……」
「……ありがとうございます」
カナは改めてお礼を言うと、ハンカチで涙を拭った。
しばらくして、カナは気を取り直す。紅茶の入ったカップに手を伸ばし、口に運んだ。
「この紅茶、おいしいです。それに、とても良い香り……」
「お口に合っているようで、なによりです」
先程まで涙ぐんでいたカナだったが、落ち着きを取り戻したようだ。エリは、一安心した。
「実は、私、こうやって誰かとお茶をしたのは久しぶりなんですよ。それこそ、いつだったか……」
「そうなんですか?」
「姉様はヴァンパイアだし、マキさんは、体質が体質だから飲めないお茶が多くて。気を使わせてしまうようで、中々お誘いしづらくて……」
「マキさんって、オオガミさんのお姉さんでしたっけ。オオガミさんもそうなんですか?」
「オオガミさんって、アサトさんのことですよね?そういえば、アサトさんもそうだと、マキさんが仰っていましたね」
「そうなんですか……」
姉弟だから、似たようなアレルギー体質なのだろう。
色々と大変だろうな、というのは検討はつくものの、カナにアレルギーはないので、いまいち想像がつかない。
そのとき、マキから、獣のような――正確に言うと、犬のような――臭いがしている気がした。
さすがに「マキさんって犬みたいな臭いがしますね」なんて言うのは、失礼にも程があるから、黙っているが。
「だから、私、とても嬉しいんですよ。カナさんとお茶をするのが」
エリの言葉を聞いて、カナは、ハッと我に返った。
「ご、ごめんなさい。ぼんやりしてたみたい……」
「お気になさらずに。肩肘張らずに、リラックスしてください」
エリは微笑んだ。
「そう言っていただき、ありがとうございます。それにしても、この紅茶、とても美味しいですね。私、すごく嬉しいです。
それに、つい最近まで、お茶が飲めるなんて、思いもしなかったんですから」
カナは、出された紅茶を、茶菓子とともに味わっていた。
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