Tea Party(11/15 '22 改

1/1
前へ
/31ページ
次へ

Tea Party(11/15 '22 改

 火鳥会の事務所に配達員が来た。組員が応対し、荷物を受け取る。 「この荷物、送り主がミドリ製薬になってるぞ」 「ミドリ製薬? 製薬会社のか? なんだってうちに届くんだ? まさか、そっちのクスリもこしらえてたのか?」 「そっちのクスリだったら、足がつきやすい宅配便なんか使うか? オマケにバカ正直に送り主まで書いてあるし」  組員たちは、ああでもないこうでもないと言い合う。  ひとしきり言い合ったあとで、「この荷物は怪しいので開けてみる」ことで満場一致した。  封を切り、発泡スチロールの梱包を解く。 「うわぁぁぁ!!」  梱包されたものを見た組員は、絶叫した。 「どうした? お前ら」  後から来たヨウヘイは怪訝そうに尋ねる。 「カシラ、この荷物、人の頭が入ってますぜ!」 *** 「――こちらにご連絡いただき、ありがとう存じますわ」  ウラトは、ゲンジロウからかかってきた電話を切ると、そばにいるレイハの方を向く。 「レイハ、コフタ=マサキが殺された」  ウラトは、電話の内容を伝える。人が死んだというのに、淡々としている。 「コフタさんにはどうお伝えいたしましょうか?」 「事実を伝えろ。下手に隠して立てすると、かえって面倒なことになる。  それから、エリにも話を通してくれ。こういうことは、エリの方が得意だからな」 「承知しました」  レイハは一礼し、執務室を後にした。 「お父さんが……?」  カナの元に向かったレイハは、先程のことを伝える。  それを聞いたカナは、ただ、呆然としていた。  その場は暫く沈黙に包まれる。  ふと、カナの頬に、何かが伝ってきた。手でそれを拭う。  拭った手を見てみると、そこには血が付いていた。 「なんで私の目から血が出ているの?」  目からの血は、留まることを知らず、流れ続けていた。  レイハは執務室に戻ると、カナの身に起こったことを報告した。  それを聞いたあと、ウラトは、ジェイとアサトを呼び出す。 「カナの目から、血が出たそうだ。ジェイ、思い当たることはないか?」 「カナは、血液以外のものも食べられるようになった。陽光にも当たれるようになった。体質の変化が進んだということだろう」  ウラトの質問に対し、ジェイはこう答えた。 「体質の変化、ですか。変化といえば、目の色が、ウラト様とジェイさんのように、赤目になっていたような……」  レイハは、カナの容貌について、思い返そうとする。 「そういえば、ジェイ、お前はカナを吸血し、血を与えたのだったな。ヴァンパイアの血には、相手を支配下に置く力がある。カナを下僕にするつもりだったのか?」 「支配下か。確かに、ヴァンパイアの血にはそのような効果がある。純然たるヴァンパイアではないとはいえ、私の血にもあるのかもしれない。  あと、別にカナを支配下に置くつもりはないぞ。でも、言われてみれば、なんでそんな事をしたのだろうか」 「「なんでそんな事をしたのだろうか」って……人の人生がかかってるんだぞ。その言い草はあまりにも無責任だろうが」  アサトはジェイの言い分に対し、怒りを通り越して呆れを覚えた。 「まぁよい。結果、カナは血以外も食べられるようになった。日の下にも出られるようになった。結果オーライというやつだ」  アサトはウラトの方を向き直る。 「失礼を承知ください、ウラト様。ジェイに甘くないですか……?」 「そうか? 余は、誰であっても優しく接しているつもりなんだが?」  ウラトは臆面もなく返した。 ***  レイハは、ウラトの命を受け、カナをエリの元に案内した。  エリの世話役になっているマキに事情を説明したあと、レイハは部屋を後にする。そのあと、入れ替わるように、カナは部屋に入った。  ドアを開けた時、部屋一帯に、光が降り注いでいる。カナは、あまりの眩しさに目を細めた。  というのも、伊原邸は日の光が入らない作りになっており、昼間でも薄暗いからである。 「あなたがコフタ=カナさんですね? 私はイハラ=エリ。ウラトは、私の姉様です」  部屋に入ってきたカナに対し、エリは恭しく自己紹介をした。 「初めてなので、恐縮してしまうのでしょうけど、どうぞ、そこのソファーに腰掛けてくださいな」  エリは穏やかに微笑む。 「は、ハイ!」  カナはぎこちなさが抜けない返事をした。  言われるがままに、エリの前にあるソファーに座る。ソファーに腰をかけた状態で、部屋を見回した。  部屋には、所々に、花や絵が飾られている。  また、高価であろうアンティーク家具が並べてあった。  床の上の敷物には、繊細な絵が描かれている。 置いてあるもの全てが、格調高い佇まいで、まさに邸宅、という趣のある部屋であった。  カナはいわゆる中流家庭の育ちだ。今のご時世を鑑みれば、比較的、恵まれた環境だろう。  だが、高級家具の類には縁がなかったためか、どうにも落ち着かない。  それに、カナにはもうひとつ、気になっていることがあった。 「ええと、変なこと言ってすみません。ここは、昼間でもなんか薄暗いのに、この部屋は明るいような気がします」 「『この部屋は明るい』ですか……それはですね、姉様がこの部屋だけ、日が入るように作られたからです。  なので姉様は、日中はこの部屋に来ることはできません。もっとも、日中はお休みになっていることが殆どですが……」  日の光は人に活力を与えるものだが、ヴァンパイアにとっては命を奪うものだ。それはウラトでも例外ではない。  だから、日中は殆ど活動していないとしても、用心には用心を重ね、日の光が入らないような作りにしたのであろう。  しかし、エリはそうではない。彼女には日の光が必要なのだ。なので、あえて日の光が入るような作りにしたのだろう。  この明るい部屋は、ウラトのエリに対する、深い愛情そのものだ。カナはそう感じ入った。 「なにか、お飲み物でもいただきますか? 紅茶ならすぐにお出しできますが」  エリからお茶にしませんかとの誘いを受けた。カナは再度、ドギマギしてしまう。 「紅茶でお願いしますっ」 「ストレートにしますか?それともミルクを入れますか?」 「えーと、じゃあ、ストレートにします」 「マキさん。お湯と茶器をお願いします。それから、お茶菓子も頼みます。私は葉っぱを取ってきますね」  エリは立ち上がり、紅茶の葉を取りに行くために棚の方へ向かった。同時にマキもエリに頼まれた物を卓に用意する。 「お待たせしました」  エリは卓につくと、用意された茶器に、茶葉を入れ、お湯を注ぐ。  カナはその様子を眺めていた。ふと、母が紅茶を入れた時のことを思い出した。  ――このカップなんだけど、割らないように気をつけなさいよ。〇〇って言うんだけど、これ、高いんだからね――。  なんという会社のものだったかは、失念した。でも、母は、そのカップを大事にしていた、というのはわかる。  そんな事を考えていたら、また目から血の涙が出てきた。 「カナさん、大丈夫ですか?」 「心配をおかけしてごめんなさい。私は……」  カナは涙を堪えようとするも、意思に反してとめどもなく出てくる。 「少々お待ちください」  エリは、立ち上がってタンスの方に向かう。白のハンカチを取り出すと、カナに差し出した。 「ありがとうございます。でも、ハンカチが……」 「気にしないでください。洗えば落ちますから。  ……我慢しないでください。カナさんはとても辛い目にあったんです。私はお話を伺うことしかできませんが……」 「……ありがとうございます」  カナは改めてお礼を言うと、ハンカチで涙を拭った。  しばらくして、カナは気を取り直す。紅茶の入ったカップに手を伸ばし、口に運んだ。 「この紅茶、おいしいです。それに、とても良い香り……」 「お口に合っているようで、なによりです」  先程まで涙ぐんでいたカナだったが、落ち着きを取り戻したようだ。エリは、一安心した。 「実は、私、こうやって誰かとお茶をしたのは久しぶりなんですよ。それこそ、いつだったか……」 「そうなんですか?」 「姉様はヴァンパイアだし、マキさんは、体質が体質だから飲めないお茶が多くて。気を使わせてしまうようで、中々お誘いしづらくて……」 「マキさんって、オオガミさんのお姉さんでしたっけ。オオガミさんもそうなんですか?」 「オオガミさんって、アサトさんのことですよね?そういえば、アサトさんもそうだと、マキさんが仰っていましたね」 「そうなんですか……」  姉弟だから、似たようなアレルギー体質なのだろう。  色々と大変だろうな、というのは検討はつくものの、カナにアレルギーはないので、いまいち想像がつかない。  そのとき、マキから、獣のような――正確に言うと、犬のような――臭いがしている気がした。  さすがに「マキさんって犬みたいな臭いがしますね」なんて言うのは、失礼にも程があるから、黙っているが。 「だから、私、とても嬉しいんですよ。カナさんとお茶をするのが」  エリの言葉を聞いて、カナは、ハッと我に返った。 「ご、ごめんなさい。ぼんやりしてたみたい……」 「お気になさらずに。肩肘張らずに、リラックスしてください」  エリは微笑んだ。 「そう言っていただき、ありがとうございます。それにしても、この紅茶、とても美味しいですね。私、すごく嬉しいです。  それに、つい最近まで、お茶が飲めるなんて、思いもしなかったんですから」  カナは、出された紅茶を、茶菓子とともに味わっていた。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加